国内24頭目の狂牛病確認 92年生まれの肉用牛 狂牛病発生予測に狂い?

農業情報研究所(WAPIC)

06.3.17
追記:3.18)

  マスコミ報道によると、厚労省の牛海綿状脳症(BSE)専門家会議(第21回牛海綿状脳症(BSE)の検査に係る専門家会議の開催について)が17日、長崎県内で繁殖用に飼育されていた黒毛和種の14歳の雌牛の狂牛病感染を確認した。国産牛24頭目、肉用牛では初めての感染確認となる。

 この牛は1992年2月10日生まれで、長崎県壱岐市内の農家で飼育されていた。出産を控えた今月2日に起立できなくなり、股関節脱臼と診断されたが、9日に出産した。13日に病畜として食肉処理場に搬入され、佐世保市食肉衛生検査所の1次検査で陽性反応が出ていた。国立感染症研究所の2次検査でも陽性と確認された。

 この牛はこれまでに10頭を出産しており、これらの子は既に食肉処理されている可能性が高い。その中に感染牛が含まれていたかもしれないことから、消費者に不安が広がるのを恐れたのだろう。「厚労省は”BSEの母子感染は疫学的にないとされており、感染牛の子の肉や内臓を食べても心配ない”と冷静な対応を呼び掛けている」という。

 もう少し正確に言っておこう。1997年4月に英国伝達性海綿状脳症委員会(SEAC)が議論した知見では、臨床症状を示した母牛の子の病牛病発生リスクは非感染牛の子に比べて高かった。全体的には9.6%の差があった。完全なデータベースに基づく別の研究では、リスクは母牛の発症後に生まれた子で最大で、発症前に生まれた子のリスクは急速に下がった。発症の2年以上前に生まれた子では、母牛の影響はまったく検出されなかった。

 ただ、この違いが真の母子感染によるものなのか、感染飼料に対する感受性の遺伝的違いによるものなのか、それとも両方によるものなのか、結論は出ていない。

 こうした証拠から、SEACは政府に子の処分を考慮すべだと勧告した。感染牛の子を「擬似患畜」として処分する現在の世界的慣行は、基本的にはこのような根拠に基づいている。過度に恐れる必要はないかもしれないが、「母子感染は疫学的にないとされて」いるというのは言いすぎだろう。”冷静な対応”を望むならば、情報は正確に伝えるべきだ。この牛の発症前2年以内に生まれた子は、未だ食肉処理されていない 可能性がある。それが完全に追跡され、処分されれば、一層”冷静な対応”を引き出せるだろう。

 ただし、報道がまったく触れていない子以外の擬似患畜についてはこの限りではない。リスクはもう少し高いだろう。

 同時に、このケースが1992年生まれであることは、既に確認された1995-96年生まれの牛よりも前に生まれた牛にも感染があった可能性を示唆する。感染源は何だったのか、徹底的な追求が必要だ。感染牛が肉用牛であったこと と併せ、これまでのわが国の狂牛病とその人間版である変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)発生予想図も変えねばならないかもしれない。

 追記(03.18):専門家会議の結果に関する公式発表によると、このケースは非定型狂牛病ということである。「ウエスタンブロット法による検査結果については、検出された異常プリオン蛋白質のパターンが定型的なものでないため生物学的性状などについて調査する」という。

 厚生労働省:「牛海綿状脳症の検査に係る専門家会議」の結果について(05.3.17)
 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/03/h0317-5.html