OIE 狂牛病発生国の”無視できるリスク”国への移行条件を緩和 米国は2年で可能に

農業情報研究所(WAPIC)

06.5.25(最終改訂:5.26)

 パリで開かれている国際獣疫事務局(OIE)総会で、狂牛病(BSE)発生国の”無視できるリスク”国への移行の条件が緩和されたようだ。従来の基準では、狂牛病が最後に発見されてから7年を経過しないと”無視できるリスク”国 への移行は不可能だったが、最後に狂牛病と確認された国産牛の出生日から11年を経過すれば”無視できるリスク”国に移行することも可能とする変更が認められた。

 Intl Decision On BSE Standards Seen Helping US Trade Case,CattleNetwork.com,5.25

 狂牛病への感染が生後間もない時期に起きる可能性が高く、潜伏期間が11年(当初案では8年とされていたが、一層慎重なEUの提案で11年とされた)を超えることは稀であろうことを考えれば、この変更は合理的に見える。しかし、11年前の年以後に生まれた牛の感染があり、サーベイランスが万全であるとしてもまだ発見されるまでに至っていないことはあり得る。潜伏期間が最長11年とすれば、旧基準でも万全とはいえず、この変更が規制の緩和なのか、強化なのかは不明だが(潜伏期間が7年以上の感染牛がどの程度あるかに依存する)、現状では米国にとっては歓迎すべき変更であることは間違いない。

 デヘイブン米国農務省(USDA)動植物検疫局長は、OIEの投票に先立つダウ・ジョーンズとの電話会見で、年齢ベースの新基準は一層”現実的”で、重要な変更だと述べたという。米国では、これまでに狂牛病の3つのケースが発見されている。しかし、2003年12月に発見された6歳とされている最初のケースはカナダ生まれだったから考慮されない。05年6月に発見された第二のケースは12歳、今年3月に発見された最新の第三のケースは10歳以上とされており、 旧基準に従えば今から7年、すなわち2013年まで待たねば”無視できるリスク”国に移行できないことになるが、新基準では、この間に新たな発生がないかぎり、2年もすれば”無視できるリスク”のステータスの国になる ことも可能だ。

 日本はこの変更に反対すると公式に表明していたが、実際には反対投票はしなかったという。日本の米国産牛肉輸入再開条件はOIE基準によるリスクステータスとは無関係に定められたものだから、この変更が直接輸入条件の変更につながるものではない。しかし、年齢制限や特定危険部位(SRM)除去などの一切の条件を免れる”無視できるリスク”国への近々の移行の可能性が見えたとすれば、あらゆる輸入条件の撤廃を求める米国の圧力が増すことは避けられない。それをかわすことはますます難しくなる。

 中国の最近の米国との輸入再開交渉は不調に終わったが、基本的には中国が”無視できるリスク”の国であるという米国の主張を拒んでいるからである。30ヵ月以下の骨なし肉に限って輸入を認めるという韓国や台湾の輸入条件 の緩和に向けた圧力も一層強まるだろう。

 ただ、”無視できるリスク”と認められるには、その他の様々な条件を満たさねばならない。USDAの輸出入ナショナルセンターのデビッド所長は、米国は2年ほどで”無視できるリスク”国になれると語った が、これは、国のサーベイランスプログラムなどに関する十分に詳細な説明を要する長い、複雑な過程になるとも語ったという。

 実際、”無視できるリスク”国と公式に認められるためには、適切なサーベイランスの実施のほか、狂牛病に合致する症候を呈するすべての牛が把握されている、適切な検査が行われている、有効な飼料規制が8年間にわたり実施されてきた、擬似患畜が恒久的に識別され・管理されており、あるいは既に死亡しているかと殺されている場合には完全に廃棄されているなどの諸条件が満たされねばならない。

 米国のサーベイランスが信頼を欠くことはUSDAの内部監査局さえ指摘している。米国の検査方法に対する疑念も流布している。飼料規制の有効性を保証するのも当局者だけである。大変な数の牛がいる広大な農場の狂牛病に合致する症候を呈する牛がすべて発見されているとはとても考えられないし、発見されても通報されずに闇に葬られているものも多いだろう。新たなサーベイランス基準はこのような牛のすべての検査を要求しているが、これも実行は不可能だろう。個体識別・トレーサビリティーのシステムが未完の現状では、あらゆる措置の有効な実施とその検証が不可能になる。

 ”無視できるリスク”国への近々の移行の可能性が生まれただけに、日本も含む国際社会は、これらの問題を一層徹底的に検証しなければならない。年齢も無制限のSRM付きの米国産牛肉がまかり通ることが許されるだろうか。少なくとも日本の大部分の消費者は、決してそんなことは許さないだろう。日本のリスク評価・管理機関はハチマキを絞めなおさねばならない。

 なお、OIE総会は、ウルグアイ、オーストラリア、ニュージーランド、アルゼンチンを正式に狂牛病フリー国と認めたという。

 Uruguay, Argentina, Australia, NZ, BSE-free,Merco Press,5.25