イタリア楽器メーカー、腸の特定危険部位指定で弦の原料が不足、例外的利用を要求

農業情報研究所(WAPIC)

06.5.30

  バイオリン、チェロ、その他の楽器を作るイタリアの職人が、狂牛病(BSE)対策のためのEUによる動物のガットの利用禁止に挑戦しているそうである。英国のオブザーバー紙によると、イタリアの弦の主要生産者であるアークイラ(Aquila)社は、EUが羊や牛の腸を特定危険部位に指定、その利用を禁止して以来、その製品を作るための十分な原料を手に入れるのが難しくなってきた。

 同社は、古式のリュート、ビオラ、その他の楽器に使われる弦のレプリカを製造するために世界中の博物館と共同してもおり、ガットの調達先をEUがリスクなしと評価するアルゼンチンに変えることを余儀なくされた。

 バイオリンの弦は食べることはできないし、誰も食べようととは思わない、こんな禁止は無意味だ、弦製造の技能は消滅の危機にあり、弦なしでは誰もバッハやヘンデルを演奏できないと、「歴史的に重要な工芸品」についての禁止の免除を要請している。

 Violin strings tangled up in BSE fears,The Observer,5.21
 
http://observer.guardian.co.uk/world/story/0,,1779764,00.html

 EUは2001年以来、牛の腸全体を特定危険部位に指定して完全廃棄を義務づけてきた。2003年からは、すべての月齢の羊と山羊の回腸も特定危険部位として全面廃棄が義務付けられている。確かに弦は食べられないし、食べる人もいないだろう。しかし、腸については厳正な手続きで完全に廃棄されなければ、どこで食品・飼料連鎖に入る込むか分からない。要求はもっともだが、実現は難しいそうだ。

 なお、一度は牛の腸全体を特定危険部位にする方針を示した国際獣疫事務局(OIE)は、日本等の反対でこれを採択できなかった。しかし、EUはその利用禁止を貫いている。もつ煮や焼き鳥で大量に消費する日本の政府は米国産牛の腸さえ輸入して国民に食べさせようとしている (注)。危険よりも便益が勝るというわけだ。もつ煮や焼き鳥に米国産の表示はされないだろうから、米国産品の安全性を疑う国民はもつ煮や焼き鳥も食べられないことになる。

 バッハやヘンデルを弾けなくなるのも大変だが、焼き鳥で焼酎一杯を無上の楽しみの一つにする左党にとってはこれは重大問題だ。

 (注)輸入を再開しても30ヵ月齢以下の牛の骨無し肉に限定した韓国や台湾と異なり、日本は骨(背骨は除く)を含む肉のみならず、内臓の輸入も認めた。20ヵ月齢以下の牛からのものに限るとはいえ、とりわけ感染牛の腸には感染初期よりも早期に多くの病原物質が含まれる可能性が高い。

 関連情報
 OIE、腸全体をBSE特定危険部位に 問われるわが国の対応,04.6.21