食品安全委 GBRリスク評価に慎重 国民をいつまで輸入牛肉のリスクに曝すのか 

農業情報研究所(WAPIC)

06.6.30

  「米国とカナダ以外の輸入相手国の牛海綿状脳症(BSE)リスク評価について、食品安全委員会は29日の会合で下部機関であるプリオン専門調査会(座長=吉川泰宏・東京大学大学院教授)の要望を受け入れ、同調査会が輸入相手国を限定せず、情報収集し、分析する手法などを検討したうえで、自ら評価するかを決める。EFSA(欧州食品安全庁)が行っている、世界各国のBSEリスクの状態を明確にしたGBRの日本版の作成に慎重な姿勢を崩さなかった。7月中に開く、プリオン専門調査会の次回会合から検討が始まる」そうである。

 「日本版GBR作成 慎重な姿勢を崩さず 食安委」 日本食糧新聞 6月29日
 http://www.nissyoku.co.jp/bse_news/index.htm

 また、「寺尾充男委員長代理は「評価を進める必要性は認めるが、データ収集の困難が予想される」と指摘。準備段階として情報収集し、評価の必要な国の選定について議論を進める考えを示した」という(「BSEで食品安全委 国別評価へ情報収集」 日本農業新聞 6.30 3面)。

 6月15日の食品安全委員会第147回会合では、企画専門調査会が平成17年度食品安全委員会が自ら評価を行う案件の候補として取り上げたメキシコ、チリ、中国産牛肉等に係る食品健康影響評価(*)に関する議論が行われ、

 *http://www.fsc.go.jp/iinkai/i-dai147/dai147kai-siryou3-1.pdf

 情報収集が難しいからすぐに評価を始めるのではなくEFSAやOIEも参考に評価に係る共通の審議事項を整理していくべきではないか、

 3ヵ国にこだわらずリスクの高そうな国、輸入量の多い国、データの揃った国などから優先的に行ってはどうか、

 評価をしたらリスクがあるという結果になった場合、リスク管理機関がどのように考えるか意見を聴いておくべきではないか、またそれまでリスクがあったものを輸入していたのかと消費者に不安を抱かせる可能性があり、作業は慎重に 進めるべきではないか、

 リスクがあるのかないのかわからないことも不安である。評価できるかどうかわからないが、やってみることが大切ではないか、

 などの意見が出て、プリオン専門調査会の意見を聴いたうえで、改めて議論することになっていた。

 http://www.fsc.go.jp/senmon/prion/p-dai36/prion36-siryou4.pdf

 そしてプリオン専門調査会について言えば、22日の会合で、やはり「データが揃わないと想定されることから、厳密なリスク評価ではなく、情報収集を中心とした勉強会ならば可能とする考えとなった」という。

 「日本版GBR 情報収集程度なら プリオン専門調査会」 日本食糧新聞 6月22日
 http://www.nissyoku.co.jp/bse_news/index.htm

 食品安全委員会も、下部組織であるプリオン専門調査会も、国民の安全・安心確保に不可欠なこの評価に真剣に取り組むつもりはなさそうだ。データ収集の困難を理由に逃げようとする委員が多数派で、安全・安心のために困難でもやってみようという気概のある委員は少数派なようだ。さらには、この委員会には、消費者の不安が高まるの恐れて消極的な姿勢を示す食品安全の番人としては およそ不適格な委員さえいるらしい。

 これは論外だが、データ収集の困難も評価をサボる理由にならないはずだ。同じ困難のなかで、EUは着々と評価を進めてきた。欧州市民をBSEのリスクをから護る不可欠な手段の一つと考えているからだ。その実施は法的に定められており、やはり法的に定められた輸入条件を輸入先相手国に具体的に適用するための基盤となっている。

 データ収集の困難を理由にGBR評価をサボるのは、恐らくは米国やカナダについて行ったような科学的にはほとんど根拠のない、恣意的な仮定に仮定を積み重ねる”定量評価”を想定しており、それ以外の評価は評価の名に値しないという分不相応の考えに 撮りつく取り付かれているからであろう。

 しかし、現実には、OIEが定めるような”無視できるリスクの国”か、”管理されたリスクの国”か、”不明なリスクの国”かがわかればよい。感染牛が何頭いるかなど見極める必要はない。適切なデータを提供できない国、あるいは提供しないためにこのような判断さえできない国については、EUもしているように最もリスクの高い国に分類するまでだ。それぞれに適用される輸入条件は、OIE基準に従って決めるか、それでは不十分と考えるならば、科学的根拠を示して上乗せ規制をすればよい。

 日本農業新聞の先の記事によると、29日の食品安全委員会会合で、農水省担当者は、「BSE未発生国であっても、・・・脳など特定部位の除去を条件にしていると説明した」というが、そんな法的措置があるとは聞いたことがない。その上、OIE基準でさえ、例えば、リスク不明国からの一定の骨なし骨格筋肉等の”無条件物品”を除く生鮮牛肉と牛肉製品の輸入に際しては、輸入国獣医当局は、

 1)生鮮牛肉及び牛肉製品が由来する牛がBSEが疑われるか確認された牛でなく、肉骨粉と獣脂かすを給餌されておらず、生前・死後検分を受け、スタンニングやピッシングを受けていないこと、

 2)これらの牛肉・牛肉製品が骨なし肉に由来し、特定危険部位(12ヵ月以上の牛の脳・眼・脊髄・脊柱・とすべての月齢の牛の扁桃・回腸遠位部、それらに由来する蛋白質製品)や脱骨の過程で暴露された神経・リンパ組織、12ヵ月以上の牛の頭蓋と脊柱からの機械的分離肉を含まず、そのすべてが汚染を回避する方法で完全に除去されていることを証明する国際獣医証明書の提出を求めるべきであるとしているのである(2.3.13.11条.)。

 最低限の国際基準に従ってさえ、特定危険部位さえ除去されていればいいというわけにはいかないのだ。このような安全対策が一国も早く導入される必要がある。そのためには一刻も早いGBR評価が必要だ。