米国研究者 血液検査によるプリオン病早期発見の可能性を示唆 実用化には難関

農業情報研究所(WAPIC)

06.7.8

  米国研究者が、狂牛病(BSE)やその人間版とされる変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)など、動物と人間の”プリオン病”を発症よりも相当前に発見できる血液検査の開発の可能性を示唆する研究を発表した。

 現在は、この病気は、発症間際になってこの病気に関連した異常プリオン蛋白質が大量に蓄積される脳の死後検査によってしか発見できない。ところが、研究者は、自ら考案した正常プリオン蛋白質の異常プリオン蛋白質への転換を加速する技術を使って、感染初期のハムスターの血液中に存在する微量の異常プリオン蛋白質を検出する方法に成功したという。

 ただし、この検査をする時期は正確を要する。感染後40日では最もよく機能したが、感染後80日になると異常プリオン蛋白質は検出できなくなった。そして、発症後の114日目で、再び検出できるようになったという。

 早期発見に向けての第一歩とは言えるかもしれないが、これはハムスターに見られたことで、人間や他の動物にそのまま適用できるわけではない。実用化には未だ遠く、それが実現する見通しが立ったとも言えないようだ。

 Claudio Soto et al,Presymptomatic Detection of Prions in Blood,Science 7 July 2006 Vol. 313. no. 5783, pp. 92 – 94:abstract

 同時に、感染したマウスの脳細胞から異常プリオン蛋白質が血液に漏れ出して心筋に蓄積、アミロイドの蓄積による人間の心臓病に似た心臓病を引き起こしたという研究も発表された。いくつかの蛋白質が心臓にアミロイドを形成することは知られているが、異常プリオン蛋白質のアミロイドが心筋に発見され、心臓病を引き起こすことを発見したのは初めてという。これも血液検査でプリオン病を発見するチャンスを拡大するかもしれない。

 Bruce Chesebro eyal,Prion-Induced Amyloid Heart Disease with High Blood Infectivity in Transgenic Mice,Science 7 July 2006:Vol. 313. no. 5783, pp. 94 – 97:abstract

 しかし、血液検査でこれらの病気が比較的早期に発見されるようになれば、例えば感染牛の人間による利用の排除には大きく貢献するが、感染者の血液や臓器の提供の排除のために使われる場合には重大な倫理的問題が生じる。今のところ治療法がなく、確実に死に至るこの病気に感染していることが分かった人をどう扱う かという問題だ。このような技術が実現したとしても、人間への適用までには大きなハードルがある。