米上院委員会 ペルーはFTA発行前に米国産牛肉輸入を全面再開せよ

農業情報研究所(WAPIC)

06.7.28

 ロイターの情報によると、米国議会上院財務委員会が27日、ペルーとの自由貿易協定(FTA)実施法案に、ペルーは米国産牛肉に対する市場を完全に開放せねばならないとする修正条項を満場一致で付け加えた。ペルーは米国における最初の狂牛病発生確認を受けて、他の多くの国と同様に米国産牛肉・牛肉製品の輸入を停止したが、その後30ヵ月以下の牛からのものに限って輸入を再開した。だが、財務委員会は、それでは不十分だ、FTA発効の前にペルーは30ヵ月以上の牛からのものも輸入を再開しなければならないと言う。

 米国政府は、政府が一旦調印した貿易協定を議会が一括して承認するか、拒否する”ファスト・トラック”法の下でこのFTAに調印した。議会がこれに部分的修正を施すことできない。しかし、協定実施法にこのような修正をもぐり込ませた。この修正は、政府が議会に送るFTA実施法案に含まれることになろうという。

 US Senate panel ties Peru trade pact to beef issue,Reuters via Yahoo! News,7.27

 ぺルー議会は6月28日にこのFTAを批准し、トレド大統領も署名を済ましている。しかし、発効を望むならば米国産牛肉市場を全面開放せよという国民の健康を犠牲にしかねない無理難題を押し付けられたことになる。

 これは、これまでに米国が完了した弱小国とのFTA交渉で使ってきた常套手段の一つにすぎない。WTOでは到底実現できない要求が、弱小国との個別交渉では巨大な米国市場の開放を餌に押し通すことができる。

 米国のソフトウエア・音楽・映画を保護するWTO の義務を超えた知的財産権保護を要求する。チリとの協定では、チリの経済政策の要の手段の一つをなしてきた短期資本移動の統制を撤廃させた。オーストラリア、タイ、韓国との交渉では、これらの国の国民に手頃な価格 の医薬品を提供する薬価政策の撤廃を迫ったし、迫っている。チュウインガムを禁止してきたシンガポールには医療補助の手段として受け入れることを強制した。

 エジプトとの間で始まっていたFTA交渉は、エジプトがEUの遺伝子組み換え体(GMO)規制に対するWTOへの共同提訴を取り下げたとたんに中断された。現在交渉中の韓国には、交渉開始の条件として米国産牛肉輸入再開を強要した。

 WTOドーハ・ラウンドが凍結された今、ますます多くの途上国が、場合によっては日本も米国とのFTA交渉に走るだろうが、これらの国は主権や国民の命にまでかかわるこのような無理難題を飲まされることを覚悟せねばならない。