スイス研究者 狂牛病研究後退のなか、人→人感染防止のための一層の努力を強調

農業情報研究所(WAPIC)

06.8.20

  スイス連邦獣医局が2006年末までに、2001年に創設された狂牛病(BSE)専門チームの人員を20人から12人に減らし、そのための予算も3分の1に減額するという。狂牛病発生が大きく減っているためだ。

 スイスにおける狂牛病の発生は1995年に68件のピークを記録したのち漸減傾向にあり、昨年は90年代半ばに感染したと見られる3頭が発見されただけで、今年も2件にとどまっている。

 2003年には、90年に禁止した動物肉骨粉が飼料の0.3%に検出されたが、2004年にはまったく検出されなかった。従って、動物の狂牛病リスクはほとんどなくなり、動物から人間への感染リスクもほとんどなくなった。今や、研究の重点を動物保健・人間の食品安全全体に移すべきだという。

 Mad cow disease no longer a priority,NZZ,8.16

 狂牛病研究で数々の実績を持ち、この研究チームを率いてきたチューリッヒ大学の神経病理学者・アドリアーノ・アグッチ博士もこれを認める。しかし、最近のインタビュー記事によると、彼は研究チームの再編は研究の消滅を意味するものではなく、他の必要に応えるためだけのものだと考えている。それは「自身の成功の犠牲」となった、「我々は狂牛病根絶の究極目標に近づいた」が、狂牛病は決して完全には克服できないだろうと彼は言う。

 彼が強調するのは、人から人への感染の脅威が増しているということだ。スイスでは狂牛病の人間版である変異型クロイツフェルト・ヤコブで死んだ者はいないが、誰も感染していないと考えるのは”幻想”だ、今までの研究・予防活動は牛から人への感染重点をおいてきたが、今後は人から人の感染の防止にそれと同じほどの努力をすることになると言う。

 Mad cow research to continue,NZZ,8.19

 ヨーロッパにおける狂牛病は確かに退潮傾向にある。それが厳格な飼料規制の実施に関連していることは確かなようだ。しかし、英国では、肉骨粉を完全に追放した後に生まれた牛の狂牛病が100例以上報告されている。ヨーロッパ以外の国では新たに発見されるか、増加傾向さえ見られる。狂牛病は決して根絶されたわけでも、根絶の確かな展望があるわけでもない。

 そして、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD、牛の狂牛病の人間に伝達したものとされる)は、人の医療に不可欠な手術や輸血によって牛から人よりも人から人に遥かに”効率的”に伝達することが知られつつある現在(英国 輸血を通してのvCJD感染3例目 輸血はvCJD伝達の”効率的”メカニズムである恐れ,06.2.10)、1頭の牛の狂牛病も遥かに多くの人間をvCJDのリスクに曝す恐れがある。

 狂牛病の減少は、決して人間のリスクの減少を意味しない。それにもかかわらず、わが国でも、牛→人感染のリスクは微小とし、狂牛病問題はもはや終わったなどと言いふらす者が跋扈している。これに声を大にして警鐘を鳴らす専門家もほとんどいない。この世界的権威者の警鐘にも馬耳東風を決め込むのだろうか。