異常プリオン蛋白質が土壌中で分解する可能性ーフランスの新研究

農業情報研究所(WAPIC)

06.9.15

 フランスの研究グループが、狂牛病等伝達性海綿状脳症(TSE)の原因物質とされる異常プリオン蛋白質は、埋め立て条件によっては土壌中で分解、感染性を失うかもしれないという研究を発表した。埋め立てられた動物死体の腐敗過程で刺激される微生物酵素がこの分解に寄与しているという。

 Delphine Rapp et al.,Prion Degradation in Soil: Possible Role of Microbial Enzymes Stimulated by the Decomposition of Buried Carcasses,Environmental Science and Technology(Web Release: September 9, 2006):Abstract

  この研究は、土壌のTSE感染性の保存と拡散にかかわる生物的・無生物的メカニズムを理解しようとするEUプロジェクトの一環をなし、環境汚染を制限するための実際的方法の提案を目的とするものという。

 研究者は放牧地の25cm、45cm、105cmの深さの土壌に感染していない4ヵ月齢の子羊17頭の死体を埋め、それらの組織がどこまで腐敗(分解)するかを1年間にわたり定期的に監視した。

 死体の上部の土壌の分解能力はどの深さでも低かったが、死体の下部の土壌では蛋白質分解が刺激された。腐敗しつつある死体は、基質(酵素の作用で化学反応を起こす物質)導入呼吸、すなわち微生物バイオマスも刺激した。このことは、蛋白質分解微生物集団が動物組織からの浸出物の上で発育することを示唆する。柔らかい組織は浅いところでは3ヵ月で分解したが、蛋白質分解活動が季節に依存する深いところでは少なくとも1年間分解しなかった。

 研究者はこれらの土壌から分離した蛋白質分解酵素が試験管内で異常プリオン蛋白質を分解することを確認した。放牧地に溜まったプリオン蛋白質が表層土壌の酵素の同様な反応を刺激、異常プリオン蛋白質を分解する可能性が高い。埋め立て条件によっては、土壌中に溜まった異常プリオン蛋白質が分解する可能性があることが示されたわけだ。

 イギリスで狂牛病が初めて発見されてから20年が過ぎたが、狂牛病の感染源の解明は未だに完成していない。大部分の狂牛病は感染動物の組織を含む肉骨粉を食べることで伝播した、ごく僅かながら母子感染もあり得るというのが現在の通説となっている。

 ところが、イギリスでは肉骨粉を完全に追放したはずの1996年8月以後に生まれた100頭以上の牛の感染が発見されている。その感染源は何なのか、考えられるあらゆる感染源・経路が調査されているが、結論は確定していない。

 疑われている感染経路の一つが病原体を含む感染動物の糞便や胎盤で汚染された土壌である。土壌中にばら撒かれた異常プリオン蛋白質が長期にわたり感染性を失わないとすれば、このような汚染土壌の上で育つ草を食べる牛が感染する可能性は否定できない。実際にこれが起きているとすれば、広くばら撒かれた感染源を完全に取り除くことは不可能だから、狂牛病根絶は半永久的に不可能ということになるだろう。

 新たな研究は、このような経路での感染を断つ方法がまったくあり得ないわけではないことを示したことで重要な意味を持つだろう。