米国研究チーム 血液からvCJD感染性を除去するフィルターを開発

農業情報研究所(WAPIC)

06.12.23

 米国研究者が血液から異常プリオン蛋白質を除去する技術の開発に成功したと発表した。輸血を通して変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)がヒトからヒトに伝達する可能性が確認され、安全な血液をいかにして確保するかが重大問題となっており、従来は異常プリオン蛋白質の半分ほどが存在するとされる白血球の除去で対応してきた。しかし、異常プリオン蛋白質は血漿中にも見られ、それでリスクは減っても除去されるわけではない。しかし、新たに開発した“P-Capt” と呼ばれるフィルターは異常プリオン蛋白質を吸着、血液から感染性を完全に除去することが確かめられた。血液を常にこのフィルターにかけることで、輸血を通しての伝達のリスクを回避できるという。

 Gregori L., et al. Lancet, 368. 2226 - 2230 (2006).
 Summary:http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140673606698978/abstract

 研究者は異常、正常の両方のプリオン蛋白質を吸着するL13と呼ばれる樹脂を見つけ出した。これを使ったフィルターを考案し、プリオン病の末期段階のハムスターからの血液を使って動物実験を行った。50匹の健康なハムスターの脳にこ の血液を接種すると、その半分がプリオン病で死んだ。白血球を完全に除去したこの血液を接種されたハムスターでは感染性が大きく減り、99匹のうち 、プリオン病で死んだのは15%だった。そして、白血球を除去して P-Captフィルターにかけた血液を接種された196匹のハムスターは1匹も病気にならず、およそ540のハムスターの寿命が尽きるまで生き残った。研究者は、伝達性海綿状脳症(TSE)に感染した血液、血液製品、その他の物質からのリスクの回避にためにこのフィルターを使うことができると言う。

 ただし、ネイチャー・ニュースによると、問題はこのプリオン蛋白質濾過の有効性を人間で検証することが非常に困難なことにある。感染性プリオンを持つとわかっているのは病気にかかっている人だけで、これらの人から研究用の大量の血液を採取することはできない。エジンバラ輸血センターのプリオン病専門家であるマーク・ターナー氏は、新たな方法が人間の血液について有効かどうかをチェックするのは非常に難しい、彼の研究グループは、この方法が血液銀行で日常的に使うに値するかどうか独立の評価を行う、人間のテストなしではそれが有効であると証明するのは難しいと言う。さらに、感染したハムスターの脳組織のサンプルのプリオンの吸着能力を試すこの米国チームの以前の研究では一部のプリオンがすり抜けており、これが血液でも起きるかどうかは血液の検査なしでは知ることができないとも指摘している。

 Prions removed from animal blood,news@nature,12.22

 どうやら、新兵器開発も手放しで喜ぶには早すぎるようだ