OIE・BSEコード修正に関するEUのコメント ゼラチン生産関連修正に強く反対

農業情報研究所(WAPIC)

07.1.27

 欧州委員会が26日、今年5月の第75回国際獣疫事務局(OIE)総会で検討される陸棲動物保健コードの修正に関するコメント草案を発表した。

 Draft written comments of the Community on on the OIE Terrestrial Animal Health Code Commission meeting October 2006 prior to the next Code Commission meeting March 2007 for consideration in the 75th General Session to be held in May 2007
 http://ec.europa.eu/food/international/organisations/ah_pcad_oie563207_en.pdf

 わが国農水省は、2月2日にこのOIEコード修正に関する意見交換会を開くというが(「食品に関するリスクコミュニケーション(OIEコードの改正に関する意見交換会)」の開催及び出席者の募集について ,07.1.9)、どのような修正が考えられているのか未だに明らかにされておらず、参加者も意見のまとめようがないだろう。多少なりとも参考になるだろうと、ここでは、わが国消費者の関心が最も高いと思われるBSE(狂牛病)に関する部分のコメントを紹介しておく。

 1.BSEリスクステータスと無関係に貿易できる物品(付属書W:2.3.13.1条)

 @このような物品に「蛋白質フリーのタロー(非溶解性不純物のレベルが重量で最大0.15%)とこのタローから作られた派生品」を含めるとされているが、欧州食品安全機関(EFSA)の定量リスク評価に基づき、これは、タローの生産に特定危険部位(SRM)が使われていないか、原料が由来する動物が生前・死後の検査(inspection)を受けている場合にしか認められないとしている。

 ちなみに、米国のレンダリング由来タローの原料にはSRMや人間消費に不適な死亡牛・ダウナーカウの牛も含まれている。

 A30ヵ月以上の牛の”脱骨骨格筋肉”をこのような物品に含めることに関しては、脱骨骨格筋肉の定義が明確にされるべきだとするとともに、30ヵ月の年齢制限に関してはさらなる研究に待って維持するとされている点を歓迎している。

 2.リスクステータス決定のためのリスクアセスメントの基準について(2.3.13.2条)

 @国または国内のゾーンまたはコンパートメントへのBSE侵入リスクの評価では、”輸入された”肉骨粉または獣脂かす、牛・羊・山羊、動物飼料と飼料成分、反芻動物由来製品が考慮されねばならないとされているが、ゾーンとかコンパートメントといった概念を使うときには国内地域間の動物と商品の流れを評価することも重要であり、”輸入”という言葉にはこのような国内移動も含まれることが明確にされるべきである。

 Aサーベイランス及びモニタリングシステムの枠内で集められた脳やその他の組織の"承認された試験所”での検査という基準については、試験所だけではなく、そこで行われる検査の方法も承認されたものであるべきだとしている。

 3.”無視できるBSEリスク”の基準(2.3.13.3条)

 @”反芻動物由来の肉骨粉または獣脂かすのどちらも、最低8年間反芻動物に給餌されなかったことが適切なレベルのコントロールと監査を通して証明された”という条件に関して、EUの経験からすれば”反芻動物から反芻動物へのフィードバン”では交叉汚染のリスクは避けられないとして、”哺乳動物由来の肉骨粉または獣脂かすが、最低8年間反芻動物に給餌されなかったことが適切なレベルのコントロールと監査を通して証明された”とすべきだとしている。

 4.無視できるリスク・管理されたリスクの国・地域からの牛の輸出(2.3.13.6条)

 ”反芻動物(上記のように、EUはこれを哺乳動物とすべきとしている)由来の肉骨粉または獣脂かすの反芻動物への給餌の禁止が有効に執行された日付以後に生まれた”という輸出できる牛の条件の一つに関して、フィードバン実施直後の感染の可能性もあるから、これに”国産のケースがフィードバンの日付以後に生まれたとすれば、最後の国産のケースの出生日以後に生まれた”という条件を付け加えるべきだとする。

 5.無視できるリスク国・地域からの生鮮肉・肉製品(30ヵ月以上の脱骨骨格筋肉を除く)の輸入(2.3.13.9条)

 それが生前・死後検査を受けた牛からのものであるとする条件については、無視できるリスク国・地域でもリスク管理措置が取られる前に感染した牛もあり得るとして、これに”哺乳動物由来の肉骨粉または獣脂かすの反芻動物への給餌の禁止以後に生まれた”という条件を付け加えるべきだとする。

 6.管理されたリスク・リスク不明の国・地域からの生鮮肉・肉製品(30ヵ月以上の脱骨骨格筋肉を除く)の輸入(2.3.13.10-11条)

 ”30ヵ月以上の牛の頭蓋と脊柱からの機械的分離肉”を含まないという条件について、このような肉の回収の正確なコントロールは難しいという実際的理由から、禁止を”すべての年齢の牛のすべての骨からの機械的分離肉”に拡張すべきだという。

 つまり、無視できるリスクの国以外からの機械的分離肉は全面的に禁止されるべきということだ。

 7.特定危険部位(2.3.13.13条)

 @管理されたリスク・リスク不明の国・地域の全月齢の牛のSRMが扁桃と回腸遠位部に限定されていることに関して、腸間膜の神経・リンパ組織の感染性は否定できず・その除去も実行不能という2001年のEU科学運営委員会の意見に基づき、腸間膜全体がSRMと見做されねばならない、従って腸全体をSRMとすべきだと言う。

 EUは実際、これをSRMとして扱ってきたし、OIEでもそうすべきだと主張をしてきた。この主張は一旦は通ったが、特に日本の強硬に反対で元に戻っている(OIE、腸全体をBSE特定危険部位に 問われるわが国の対応,04.6.21)。

 A管理されたリスク国・地域のSRMとされる脳、眼、脊髄、頭蓋、背根神経節を30ヵ月以上の牛からのものに限る点について、EFSAのリスク評価に基づき(欧州食品安全庁、中枢神経組織SRMを除去すべき牛の年齢引き上げに慎重意見,05.5.27)、この下限を21ヵ月に引き下げるべきだとしている。

 なお、リスク不明国については、OIEもこれを現在のEUと同じ12ヵ月以上としている。

 8.ゼラチンの扱いについて(2.3.13.14条)

 EUが最も恐れ、最も強硬に反対しているのは、食料・飼料・化粧品・医薬品に使われる骨由来のゼラチン(およびコラーゲン)の扱いの修正だ。

 現在の修正案では、これらは、無視できるリスクの国・地域からのものであると証明されば輸入できるとされているが、EUは、国際貿易と製品の流れを考慮すれば、製品の原産国・地域よりも、製品の仕上げに利用された原材料の原産国の認証を求めるほうがはるかに合理的だと言う。

 管理されたリスクの国・地域、リスク不明な国・地域からのものについても、生前・死後検査を受けた牛由来のものであることが立証されればよいとされている。しかし、EFSAが2006年1月に発表したゼラチンに関する定量リスク評価*によると、12ヵ月以上の牛の頭蓋と脊柱はゼラチンの生産に使われてはならないとされている。頭蓋から脳の完全除去は実際上難しく、頭蓋の骨の脳組織による汚染も避け難いという観点からしても、欧州委員会は、頭蓋の骨をこれらのリスクステータスの国でのゼラチン生産用原料に含めることは支持できないと言う。さらに、SRMの貿易を禁止しながら、SRM由来のゼラチンの貿易が許されるのは、上記のSRMに関する条項とも矛盾するではないかと、提案されている修正には強く反対している。

 *Opinion of the BIOHAZ Panel on the “Quantitative assessment of the human BSE risk posed by gelatine with respect to residual BSE risk”
 http://www.efsa.europa.eu/en/science/biohaz/biohaz_opinions/1333.html