米国BSE検査 検体採集者が有罪 高リスク牛の代わりに健康な牛を検査に

農業情報研究所(WAPIC)

07.2.20
追記:07.2.23)

 米国連邦政府との契約で狂牛病(BSE)検査のための検体収集を引き受けているアリゾナ州マリコバ郡の男が、検査の誤魔化しで有罪となった。この男は、高リスクの牛から検体を採取して米国農務省(USDA)に提出し、また検査が実施されるまでと体を冷凍室に保存することを引き受けているが、実際には健康な牛からの検体を差し出し、またと体の保存もしていなかった。

 彼と彼が所属するFarm Fresh Meats社が今週、政府資金窃盗等の罪状で有罪になった。この詐欺行為で政府が受けた損害は39万ドル(およそ4700万円)、この男は一つの検体を提出するごとに150ドル(約1万8000円)の支払を受けていたという。

 KVOA.com: Maricopa Man Guilty In Bogus Mad Cow Testing Case,Cattle Network,2.17

 わが国食品安全委員会は、米国のBSEサーバイランスには有病率推定に用いるBSurvEモデル、サンプリング、検査方法、検体の取り扱い方法などに関して問題があり、感染牛が見逃されていた可能性は否定できないとしながら、USDAが推定する100万頭あたり1頭以下という有病率は、これらの問題を踏まえて推定をやり直したとしても大きく増えることはないと言う。

 米国のBSEサーベイランス見直しに対する見解(平成18年12月、厚生労働省・平成19年1月11日)
 http://www.fsc.go.jp/hyouka/bse/bse_survaillancerecons.pdf

 その根拠はまったく示されておらず、どうせあてずっぽうだろうが、まさか危ない牛は検査に出されず、代わりに大丈夫そうな牛が検査に出されることがあるなど、まったく想定外であることだけは確かだろう。ちなみに、例えばEU15ヵ国の検査では、高リスク牛検査数に対する陽性牛の比率は、健康牛検査数に対する陽性牛の比率のおよそ40倍(2003年)、26倍(2004年)となっている(→欧州諸国のおけるBSE検査結果)。

 追記(07.2.23):これをアップした後の「日本農業新聞」の調査で、これが依拠した英文記事のソースが連邦アリゾナ地方検事局が2月16日に発した緊急リリースであることがはっきりした。詳しくは2月23日付け日本農業新聞(2面)を参照されたいが、この緊急リリースは、「狂牛病(mad cow disease )検査システムの無欠性はFarm Fresh Meatsのような企業の誠実な協力にかかっている。誠実な協力なくしては、米国と海外両方の消費者が危険にさらされる」と述べている。

 http://www.usdoj.gov/usao/az/press_releases/2007/2007-051(Farabee).pdf

 この不正行為は米国農務省監査局(OIG)の調査をきっかけにたまたま摘発されたようだが、収集される検体が高リスク牛からのものであることを保証する体制があるのかどうか、改めて疑問がわく。契約者が本当に高リスク牛から検体を採取したのかどうか、誰がどうやって確認するのだろうか。そんな制度がないとすると、このような不正行為はこの事例に限られないかもしれない。サーベイランスとその結果に対する信頼性が全面的に揺らいでしまう。