日本弱齢牛BSEに感染性なし?米国産牛肉輸入条件緩和に弾みと朝日が早とちり

農業情報研究所(WAPIC)

07.5.9

 朝日新聞が、「03年に日本で牛海綿状脳症(BSE)と判定された生後23カ月と21カ月の牛の脳を材料にマウスで実験したところ、感染性を確認できなかったことが、厚生労働省の研究班(主任研究者=佐多徹太郎・国立感染症研究所感染病理部長)の中間報告で明らかになった。人への感染の恐れも無視できるとの判断につながる可能性がある。日本はこの2頭の存在を根拠に、米国産牛肉の輸入条件を月齢20カ月以下に制限しており、条件緩和を求める米国との交渉に大きな影響を与えそうだ」と報じている(9日付1面、またはウエブページ:http://www.asahi.com/life/update/0508/TKY200705080402.html)。

 しかし、これらの牛の脳の感染性が確認できない*ということは、20ヵ月以上のこの程度の月齢の牛が仮に感染していたとしてもすべて安全ということを直ちに意味するわけではない。今後同様な月齢の牛にBSEが発見されたとして、それが安全だとは今回の実験結果から拡張推定することはできないだろう。その都度確認実験が必要になる。

 *実験を担当した横山隆・動物衛生研究所プリオン病研究チーム長は「実験結果はまだ公表できない」と言っているそうだから、これは感染性が存在しないという最終結論が出たことは意味しない

 20ヵ月で区切った本来の意味は、21ヵ月齢以上の牛ならば、現在の検査技術で感染を発見できる可能性が排除できないが、20ヵ月以下の牛についてはその可能性を示す証拠は見つからないということにすぎない。あくまでも検査を拒む米国の牛肉の輸入条件を月齢20カ月以下に制限したのは、検査しても感染が発見される可能性は小さいから、検査によって安全性が高まることはないと考えたからで、20ヵ月以下の牛ならば感染していても安全だからではない。

 この記事は米国が求めてやまない月齢条件の緩和に向けての”露払い”役を自任しているかのごときだが、それはこの実験の意味合いをまったく理解していないからだ。この結果は輸入条件緩和とは無関係だ。輸入条件の緩和があるとすれば、厳正なリスク評価に基づいてのみだ。

 [しかし、それに関して言えば、米国産牛肉については、そもそも輸入条件以前の問題がある。

 BSEの科学の現状では、安全確保の決め手としては感染牛の完全排除しかない。しかし、現在の検査技術をもってしても、すべての感染牛を発見することはできない。それでも人は牛肉を食べることをやめない。そうなると牛肉産業も崩壊、経済・雇用にも影響が及ぶ。そこで、いずれも決め手とはなりえないが、考えられるリスク軽減策のすべてを動員して、これでリスクは最小限に抑えられると納得して(させて)牛肉を食べ(させ)続けているだけだ。ところが、米国はこのようなリスク最小化策さえ満足に実施していない。

 これらのリスク軽減策の中でも最も基本的なものが、@牛の感染を防止すると考えられる飼料からの肉骨粉の完全排除、A生前・死後検査やラピッド・テストによると畜牛の検査などによる感染牛の可能なぎりの発見と食料からの排除、B特定危険部位の除去と廃棄だ。米国が食用と畜牛のラピッド・テスト検査を拒み続けていることをはじめ、これらの措置のどれ一つ満足に執行していないことは今までに繰り返し指摘してきた。

 人々がリスクは最小限に抑えられると納得するような措置がないのだから、輸入条件を論議すること自体に拒否反応が生まれることになる。輸入条件の論議に入るためには、まず米国が、肉骨粉の全面禁止とすべての飼料からの特定危険部位の排除、食用と畜牛のラピッド検査の導入を実施しなければならない。]