米国で史上最大の牛肉製品リコール ダウナーカウと畜のBSE規制違反

農業情報研究所(WAPIC)

08.2.18(2.20 追補・改訂)

 米国・カリフォルニアの食肉パッカー・Hallmark/Westlamd社が米国史上最大、桁違いの牛肉製品大規模リコールを始めた。これら牛肉製品は狂牛病(BSE)感染もあり得る牛からの製品で、米農務省(USDA)の食品安全検査局(FSIS)が人間の消費には不適と決めたためという。これらの牛肉製品は生前検査をパスした後に起立歩行が困難になった牛(いわゆるダウナーカウ)からのもので、工場はFSISの公衆衛生獣医に知らせ、牛のBSEの可能性を精査する手続きを怠っていた。

 こうした違法行為は過去2年にわたって続いていたと見られ、FSISは、この間に生産された牛肉製品すべてを人間消費に不適とした。リコールの対象となる牛肉製品 (生肉と冷凍肉)は1億4,338万3,823ポンド(約7.2万トン)にも上り、過去最大の97年・ハドソンフーズ社のO157汚染による約2,500 万ポンド(1.25万)トン牛ひき肉リコールとは桁違いだ。リストアップされたリコール製品のラベル名は69に上る。

 ただし、リコール対象品は、すでにほとんど消費されてしまっているはずだ。うち17万トンは学校のランチやその他の連邦栄養改善プログラムのために買い入れられたという。

 California Firm Recalls Beef Products,FSIA,08.2.17
 http://www.fsis.usda.gov/PDF/Recall_005-2008_Release.pdf

 これは、同社が動物の非人間的扱いと畜を防止すFSIS規則と”人間的と畜方法法”に違反する行為を続けているという訴えを受けたFSIAの調査の過程で発覚した。FSISは2月4日、すでに同社の操業停止を命じているが、この動物福祉規制違反がBSE規制違反にまで発展したわけだ。

 USDAは、 ダウナーカウと畜規制は人間の安全確保策のほんの一部にすぎず、これら製品の消費による人間の感染リスクは極小と言う。とはいえ、リスクがあり得るからこそ規制しているのだろう。消費者が納得するはずもない。

 不安の拡大を防ぐために、こんな違反は”孤発例”で、他の施設では起きていないと”信じる”とも言う。FSISの検査員はよく訓練されており、こんな違反行為はすぐに見破り・即座に行動するとか、生前検査のために獣医や検査官が見回りをしているとか、工場職員は牛を人間的に扱うように義務づけられており、生前検査をパスしたあとでダウナーになったら直ちにFSIS検査員に知らせることも義務づけられている、等々だ。

 QUESTIONS AND ANSWERS HALLMARK/WESTLAND MEAT PACKING CO,USDA,2.17

 しかし、それならば、というより、それにもかかわらず、どうしてこの”孤発例”が生じたのか。それが分からなければ説得力はない。むしろ、違反はたまたま発見されただけで、ここであったのだから、ほかでもあるだろうと考えるほうが自然だ。

 とすると、この施設はたまたま日本への輸出を認められた施設1)ではないが、日本に輸出する施設でこんなことが起きていないと立証することもできないだろう。それが立証できるまでは米国産牛肉の輸入は禁止すべきだろう。BSE(あるいはその他の家畜病)感染を疑われる牛(動物)やその製品を禁止することは、いかなる国際ルールにも違反しない。

 EUは今年1月31日から、ブラジルからのすべての牛肉の輸入を停止してしまった。これは昨年12月19日の食品チェーン・動物保健常設委員会の決定に基づく措置だ2)。EUは、EU衛生基準を満たす農場・施設からの輸入しか認めていない。ところが、ブラジル当局は、牛の農場登録・個体識別・移動管理など、この実施に不可欠な措置をいつになっても講じない。それで全面輸入停止となったわけだ。ブラジルは手も足も出ない。得意のWTO提訴でも勝ち目はないからだ。

 (ついでに。加工食品についても、日本に輸出したい外国施設は予め日本の専門家の検査を受け、日本への輸出を認められる施設として認証を受ける制度を作るべきだ。 それ以外の施設からの輸入は禁止する。日本の水際検査の拡充による安全確保はコスト非効率であるだけでなく、輸入食品が増え続けるかぎり、いずれ破綻する。国民皆検査員にでもならないかぎり)

 1)http://www.ams.usda.gov/lsg/arc/evjapanlisting.htm

 2)http://ec.europa.eu/ireland/press_office/news_of_the_day/brazilianbeef_en.htm