カナダ 養牛農家のBSE集団訴訟が成立 政府の怠慢によるBSE発生で巨額の損失

農業情報研究所(WAPIC)

08.9.8

 カナダのオンタリオ高裁判事が9月4日、2003年の”マッド・カウ・ディジーズ”(狂牛病、BSE)発見で巨額の経済的損害を蒙ったとして連邦政府を訴えた11万5000の養牛農家によるクラスアクション(集団訴訟)の成立を確認した。

 同高裁のジョーン・ラックス判事は、これらすべての原告たちがBSE発見により巨大な経済損失を蒙ったことを認め、法廷闘争はカナダ牛肉・牛肉製品を永久的に米国市場から締め出そうとする米国の牛肉産業ロビーに手を貸すことになるという連邦政府の言い分を、きっぱりと拒絶した。彼女は、「これは難しい政治的決定になる恐れがあるけれども、訴訟を否定する理由にはならない」と述べたということだ。 

 Mad-cow class action gets judge's clearance,Globe and Mail,9.5
 http://www.theglobeandmail.com/servlet/story/RTGAM.20080905.wmadcow05/BNStory/National/

 このクラスアクションは、BSEの1頭のケースがカナダ牛を国際市場から閉ざす状況を不注意(怠慢)で許したと、連邦検査当局を訴える。原告は、1980年代末に英国から輸入された198頭の牛を監視するために立ち上げられた連邦プログラムの失敗の直接の結果として、カナダ牛がBSEに感染したと主張する。彼らによると、198頭のうちの80頭が英国でBSEに感染していた可能性があり、それが不注意に(怠慢で)食品チェーンに入るのを許された。

 判事は、誰に間違いがあったかを問わず、「BSEは養牛農家に共通の病気である。03年5月20日のあとすぐに、すべての養牛農家の家畜が大きく値下がりした。牛と子牛の収入は半分に減った。外国への販売は完全に止まった」と言う。原告の弁護士は、この際、原告すべてに損害を補償するほかないと言う。

 政府側弁護士は、農民の状況は個々に異なるから既存の補償プログラムの方が勝ると、クラスアクションの成立確認に反対した。しかし、判事は、政府を相手とする個々の農民による裁判などほとんど不可能で、政府の怠慢から起きたこの問題は8週間から12週間の裁判でスピード解決できると反論した。

 なお、クラスアクションは汚染飼料を製造したとされるRidley Incも訴えたが、ラックス判事は法的争いを回避する和解を承認した。Ridleyは、原告に対して600万ドルを支払う。 


 日本では、怠慢を非難された政府も、汚染飼料を製造・販売した企業も、責任を問われることはまったくない。患蓄が出た農家も、牛肉の売り上げ減少やや価格低下で大きな損害を受けた農家も、満足な補償を得たということなのだろうか。