パプアニューギニア部族に遺伝的プリオン病抵抗性 「ダーウィン的自然淘汰の証明」と英国研究者

農業情報研究所(WAPIC)

09.11.20

 英国の新たな研究で、パプアニューギニア(PNG)高地部族が狂牛病(BSE) の人間版とされるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)に類似のクールー病に対する強力な遺伝的抵抗性を発達させていたことが明らかにされた。

 クールー病は、近親者を敬いその死を悼むしるしとして、婦人や子供が死者を食するPNG高地部族に特有の食人習慣によって広がったとされる。1950年代末にこれが禁止されるまで、発生率が非常に高い地域の致死的流行病となっていた。

 この研究は、20世紀半ばのこの流行病から生き残った3000人あまりの人々を対象に、遺伝・選択(または淘汰)に関する臨床評価と系統学的評価を行ったものという。

 クールー病流行期を生き延びた人々の大半は、プリオン蛋白遺伝子(PRNP)のコドン 129 が、”プリオン”病と一括されるこの種の病気に耐性を有すると考えられているヘテロ接合体であった。

 ところが、コドン 129 がメチオニンホモ接合体で、クールーへの感受性を有するはずの女性の半数に、新たな PRNP 変異型であるG127Vが認められた。この遺伝子はクールーの発症率が高い地域で高い頻度で認められるが、クールー患者と世界各地の非曝露集団では認められない。系統学的分析により、この保護的遺伝子を有する家系のクールー発症率は、対照家族よりも有意に低いことが示されたという。

 研究者は、「127V 多型は、クールー病流行を誘発した可能性のある病原性変異というより、クールー流行期に選択された後天的プリオン病耐性因子である。PRNP のコドン 127,129 の変異型はプリオン病流行に対する人口集団の遺伝的反応を示すもので、ヒトにおける最近の選択(淘汰)の強力な事例になる」と結論する。

 Simon Mead et al.,A Novel Protective Prion Protein Variant that Colocalizes with Kuru Exposure,The New England Journal of Medicine,November 19, 2009.
  Abstract:http://content.nejm.org/cgi/content/short/361/21/2056

 BBC Newsによると、この研究の著者の一人、メディカル・リサーチ・カウンシル(MRC)プリオン・ユニットのジョン・コリンジ教授は、「今ここでダーウィンの原理が働いているのを見るのは本当に魅惑的なことだ」、「この人々のコミュニティは、真に恐るべき流行病に対する生物学的に独自の自身の反応を発達させた」、「この遺伝的進化がおよそ数十年で起きたのは驚くべきことだ」と言う。

 彼は、この発見が、さまざまなプリオン病の理解、治療、予防に近づく研究の新たな分野を開くとも言う。[筆者には具体的に何を意味するのか、見当がつきかねる]

 ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン神経学研究所の遺伝学者、ジョン・ハーディ教授は、「これは自然選択[淘汰]のファンタスチックな証明だ」と言う。しかし、CJDへの同様な抵抗性が発達する可能性はもっと小さい、「PNGでは、クールーが主要な死因となった、だから明確な生き残りのアドバンテージがあり、選択[淘汰]圧は巨大だった。ここイギリスでは、CJDの数は非常に少なく、選択圧はもっと小さいだろう」と言う。

 Immune tribe 'indicates CJD hope',BBC News,11.19
 http://news.bbc.co.uk/2/low/health/8364603.stm