農業情報研究所狂牛病 >ニュース:2012年2月1日

プリオン病 リンパ組織を通じて種の壁を容易に超える 大量の隠れ保菌者が存在の恐れ

 BSE(牛海綿状脳症)やヒトの変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)のような”プリオン病”は、以前考えられていたよりもずっと容易に種の壁(バリアー)を跳び越えて伝達するらしい。以前の研究では、症候の観点からも、感染動物の脳内の病原性(異常)プリオン(以下、単にプリオンと呼ぶ)の存在からしても、プリオン病の種間伝達は容易でないと判断されてきた。BSEの牛から人への伝達も種間バリアーの故に非常に起き難い。大量の牛のBSE感染にもかかわらず、それが人間に伝達したものとされるvCJD患者は世界で200人ほどが確認されているにすぎず、それもその証左の一つとされてきた。

 ところが、プリオンは脳で複製されるだけではなく、脾臓、扁桃、虫垂のようなリンパ組織も襲う(ずっと以前のフランスの研究は、現在の簡易検査では感染を発見できないような潜伏初・中期のBSE感染牛では中枢神経組織よりも末梢神経組織・リンパ組織に多くのプリオンが蓄積していることを発見している。これは、EUが腸全体を特定危険部位に指定する根拠をなしている)。そこで、フランス国立農学研究所のプリオン病研究者が、プリオン蛋白質の羊または人間版を表現するように遺伝子操作されたマウスの脳にヘラジカ、ハムスター、ウシから採ったプリオンを注入、マウスの脾臓と脳の中のプリオンを定期的に調べた。

 これらマウスの脳からはプリオンはほとんど検出されなかった。生涯の間に脳からプリオンが検出されたマウスは43匹中の3匹にすぎなかった。ところが、脾臓については41匹中の26匹でプリオン陽性であった。しかも、これらプリオン陽性のマウスにはBSEの症候が見られなかったという。

 研究者は、これはプリオンは脳組織よりもリンパ組織を通じて種の壁を容易に乗り越えることを示すもので、これを人間に当てはめると、脾臓などのリンパ組織が感染しながら症候を示さない人(保菌者)が多数存在すると想像できると言う。

 実際、ロンドン・ユニバーシティ・カレッジのプリオン・ユニットのジョン・コリンジ教授は、除去された虫垂(盲腸)のサンプルの最近の二つのサーベイはイギリス人の4000人に1人が隠れた「保菌者」であることを示唆していると言う。ということは、輸血、臓器移植、手術を通して、そうと知られることなくプリオン病がヒトからヒトに伝わっていく恐れがあるということだ。

 コリンジ教授は、手術・解剖組織の分析によってイギリスにおけるプリオン感染の発生率を評価し・vCJDの血液検査で隠れた保菌者の感染を発見できるかどうか研究することに全力を注ぐべきだと言う。

 Vincent Béringue et al.,Facilitated Cross-Species Transmission of Prions in Extraneural Tissue,Science 27 January 2012: Vol. 335 no. 6067 pp. 472-475
  http://www.sciencemag.org/content/335/6067/472
  Prion diseases hide out in the spleen,Nature News,12.1.26