母乳・牛乳がロケット燃料の過塩素酸塩で高濃度汚染 子供の精神発達遅滞を招く恐れ

ー米国の新研究 米国だけの問題ではない可能性ー

 農業情報研究所(WAPIC)

05.2.26

 ロケット燃料中の有毒化学物質である過塩素酸塩が米国中の母乳と牛乳を健康を害する恐れがあるレベルで汚染している。この状況は世界の他の場所でも見られるかもしれない。この毒物の影響を闘うために毎日のヨー素摂取量を増やすべきである。テキサス工科大学の化学者・Purnendu Dasguptaが率いる研究チームがこのような新たな研究を発表した(*)。

 NewScientist.com(**)及びnews@nature(***)の記事によってこの研究を要約する。 

 過塩素酸塩は90年代末に上水で発見されたが、それ以前にも牛乳やレタスに発見されている。この物質は、大気中で自然にでき、通常は低レベルで土壌に蓄積しているが、ミサイルや宇宙ロケットを発射するために使われる燃料から一層大量に環境に浸出する。

 この物質は代謝を撹乱し、リスクは幼児で特に大きいと考えられている。大容量の過塩素酸塩は、神経組織の発達に不可欠な甲状腺ホルモンの生産を妨げることで、胎児や幼児の精神発達遅滞を惹き起こす可能性がある。さらに、最近の発見は、以前考えられていた以上の浸透力で人々の食物に浸透することを示唆している。

 研究チームは18の州の婦人の36の母乳サンプルと店で購入した牛乳の47のサンプルを検査した。過塩素酸塩は、すべての母乳で、1リットル当たり平均10.5マイクログラムのレベルで検出された。また、牛乳ではの一つを除くすべてのサンプルで、平均2.0マイクログラムのレベルで検出された。

 環境保護庁(EPA)は2月18日、米国科学アカデミー(NAS)のパネルの最近の勧告に従い、この物質の摂取量の安全レベルを定めた。母乳中に含まれる量は、体重1kg・1日当たり0.7マイクログラムが上限とされた。研究者は、母乳の汚染レベルはこの安全レベル以上の過塩素酸塩に乳児を曝すことになると計算している。例えば、4kgの乳児が1リットル当たり10.5マイクログラムを含む乳を0.7リットル飲むとすると、体重1kg当たり1.8マイクログラム飲み込むことになり、安全レベルの2倍を超える。EPAは、飲料水に関しても1 リットル中24.5マイクログラムまでという指針を出した。Dasguptaは、婦人は、恐らく、水が汚染された地域で栽培される食品などの汚染源から一層多くの過塩素酸塩を摂取していると注意する。

 この研究は、過塩素酸塩を取り込むリスクは必須栄養素であるヨー素の不足を招くことで一層大きくなることも示している。過塩素酸塩はヨー素の甲状腺と母乳への取り込みを妨害する。研究チームは、母乳中のヨー素のレベルが80年代と比べて劇的に減っていることを発見した。これは、恐らくは過塩素酸塩がヨー素の母乳への移動を阻止するためであると言う。同時に、婦人の食事が生鮮食品から加工食品に移り、ヨー素摂取量が減っていることが問題を一層悪化させている。妊婦のヨー素摂取量は必要量の半分でしかないという。

 Dasguptaは、妊婦と授乳中の婦人がヨー素を含むサプリメント(乾燥海草のカプセル)を摂取するように勧告する。また、食事での1日当たりヨー素摂取量を引き上げるべきだとも勧告する。ただし、環境団体は、防衛産業が汚染サイトを浄化し、燃料貯蔵器からの一層の浸出や投棄を防止する措置を導入するように望んでいる。また、安全レベルに関するNASのパネルを率いたコロラド大学のRichard Johnston は環境への漏出を止める予防措置がベターと言うが、産業の側はそれは費用が高すぎると言っている。

 この問題は米国に限られたものではなさそうだ。Johnstonは、過塩素酸塩を巡る論争は米国に集中してきたが、恐らく世界中で過塩素酸塩汚染が起きている、「ロケットを使用する軍事施設があるところではどこでも問題がありそうだ」と語ったという。

 *Kirk A. B. et al. Environ. Sci. & Technol., published online doi:10.1021/es048118t (2005).
 (**)Perchlorate found in breast milk across UShttp://www.newscientist.com/article.ns?id=dn7057
 (***)Perchlorate found in breast milkhttp://www.nature.com/news/2005/050221/full/050221-13.html