新生児のビスフェノールAへの暴露が後の前立腺癌の素因ー動物実験による初の証拠

農業情報研究所(WAPIC)

06.6.12

 米国シンシナティ大学の研究者が、前立腺発達期の雄のラットに対する微量のビスフェノールA(BPA)への暴露が後の前立腺癌の素因になるという最初の証拠を報告した。BPAはプラスチックや樹脂の製造に使われる人造物質で、哺乳瓶、食器、食品保存容器、おもちゃ、おしゃぶり、虫歯の充填材など広範な用途に使われてきた。

 研究者は、前立腺が急速に発達する時期の生まれたばかりの雄のラットを低容量の自然のエストロゲン(エストラジオール)やBPAに曝した。そして、この早期の暴露が大人になったラットの前立腺の前癌病変の素因となることを発見した。この発見は、BPAと前立腺癌を関連づける初めての科学的証拠と考えられる 。研究者は、動物実験の結果は直ちに人間には適用できないが、用心が必要という。

 Shuk-Mei Ho et al,Developmental Exposure to Estradiol and Bisphenol A Increases Susceptibility to Prostate Carcinogenesis and Epigenetically Regulates Phosphodiesterase Type 4 Variant 4,Cancer Research 66, 5624-5632, June 1, 2006
  Abstract:http://cancerres.aacrjournals.org/cgi/content/abstract/66/11/5624

 研究に使われたエストラジオールとBPAの容量は人間の血液に普通に見られるレベルー10ppb−であった。これらに暴露されたラットが大人になってエストロゲンに曝されると、暴露されなかったラットよりも前立腺の前癌病変や発癌が起きやすいことがわかった。研究者は、それが遺伝子そのものの変異なしで遺伝子の発現ー働きーを変化させるエピジェネティック(後発的)再プログラミングと呼ばれる現象のためであることを実証できたという。

 研究者は、BPAのような環境エストロゲンや自然のエストロゲンへの暴露は発達期の前立腺における遺伝子発現のパターンに影響を与え、加齢とともに病気を助長すると結論している。

 わが国ではBPAを含む食器が学校給食で広く使われてきた。環境ホルモンの疑いが出ると、BPA溶出の恐れからほとんどの学校給食にはこのような食器は使われなくなっているようだ。しかし、これを含む多くの消費に直結する製品がなお使われているようだ。食品衛生法は溶出基準を2.5ppm(2500ppb)と定めた。しかし、これよりもはるかに低容量での暴露の発癌との関連が明らかにされた以上、一層の予防措置が必要になるかもしれない。