新潟・福島でケタ外れの豪雨、緊急を要する自然災害対策見直し

農業情報研究所

04.7.12

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 先週金曜日(9日)、温暖化というテロリストが日本に上陸したと書いたばかりだ。それから1週間経たない今日までに、このテロリストに殺されたと考えられる犠牲者は12人に達した。8日には4人、9日には3人が熱中症で亡くなったと報告された。13日に集中豪雨に見舞われた新潟・福島両県では、今までのところ5人が死亡と報じられている。もちろん、犠牲者はこれだけではない。8、9日の猛暑では、死亡と報告された数をはるかに上回る人々が病院に担ぎ込まれた。集中豪雨では土砂崩れや冠水で家屋・家財・道路などの財産被害も拡大、農業を始めとする産業被害も甚大と予想される。

 もちろん、これらを「温暖化」と関連づける科学的証拠はない。個々の気象事象を「温暖化」という人為が引き越す長期的傾向と結びつけるにはデータが不足しているからだ。だが、温暖化がこうした異常気象の強度を強め、極端な気象事象発生の頻度を高める一般的傾向は、いまやほとんどの科学者が認めている。今起きていることを温暖化がもたらすこのような傾向を反映するものととらえ、このような極端な気象事象がいつ、どこで起きるか分からないと前提した上で、それがもたらす災害を回避する手段を緊急に構築する必要がある。

 12日夜半から降り始めた雨は13日未明から本格化、同日9時までに新潟県栃尾で423_、加茂で299_、福島県只見で329_に達したという。これは前代未聞の大雨だろう。栃尾の13日の日降水量は421_、79年以来の記録でダントツの一位、二位・169_(95年8月10日)の倍以上だ。只見の13日の日降水量も325_、やはり二位・156_(98年8月4日)の倍以上に達した。今月初めには、静岡も同様の集中豪雨に見舞われ、新幹線は止まり、石垣イチゴの石垣が壊された。

 このようなかつては考えられもしなかった集中豪雨に襲われる可能性は、全国各地どこにもある。これに対する備えを固めることは、目下の何よりの急務だ。だが、大量殺戮兵器存在の確証もないのに戦争まで始め、あるいは支持した政府は、温暖化という大量殺戮兵器には確証がないと対策を渋っている。

 このような極端な気象事象とそれに伴う災害の頻発化は、日本だけに起きているのではない。この2ヵ月ほどの例をとっても枚挙に暇がない。

 相変わらず世界各地で続く厳しい干ばつは除き、目立つ例を上げれば、次のとおりだ。

 北米

 5月22-23日、5月30日-6月始め、米国中西部が暴風雨と多数のトルネード(22-23日だけで80以上といわれる)に襲われ、10人以上が死亡、怪我人も続出した。多数の家屋が倒壊・浸水の被害を受け、広大な地域で停電した。大雨は植えたばかりのコーンや大豆を台無しにする農作物被害も招いた。カナダ・オンタリオも、この8年で最強といわれるトルネードに襲われた。

 中南米

 5月末、ドミニカとハイチで、二週間降り続いた雨の後、この100年来最悪と言われる土砂崩れ・洪水災害が起きた。少なくとも2,000人が死ぬか、行方不明となった。

 中国

 6月の大雨で数十人(40-50人?)が死亡。7月第二週の三日日間で、洪水・土砂崩れなど水関連災害による死者は22の省と自治区全体で288人に達し、3,330万人が直接の影響を受け、農地3,100万haが冠水、13万の家屋が破壊されたという。10日朝には激しい雷雨が上海を襲い、少なくとも7人が死亡、広範な地域で停電が起きた。同日夜には、北西部を季節はずれの猛烈な砂嵐が襲った。二週間続いた干天と高温がもたらした異常事態ではないかと言われる。このような大雨の一方で、他の地域は最悪の干ばつを恐れている。7月13日までの干ばつや地震を含めた自然災害による死者は総計555人、経済的損害は34億4000米ドル(約3500億円)にのぼる。作物が破壊された農地は100万ha、1,455万haの作物が影響を受けている。洪水だけで296人が死亡、41万人以上が移住を余儀なくされ、被害農地は187haにのぼっている。

 台湾

 7月初めに中・南部を襲った台風の影響で山岳地域を中心に洪水・土砂崩れ・地滑りが発生、27人が死亡、4,500人が救出され、9,000人以上が家を失った。三日間の降水量は1000_を超え、中には2,000_に達した場所もあるという。政府は復興工事よりも、住民の移住を優先する姿勢を示している(台湾大洪水、山地住民の移住計画を促す 土木工学ではもはや住民を救えない,04.7.13)。

 南アジア

 この10年で最悪と言われるモンスーン洪水に襲われている。インドでは、過去数日間で66人(ビハールで36人、アッサムで28人)が死亡し、数百万人が家を失っている。北部・ビハール州では400万人が罹災、少なくとも40人が死んだ。道路・鉄道は寸断され、近くの鉄道駅などに批難した住民に、軍が食料や薬を投下している。バングラデシュでは国民の3分の1が影響を受けていると言われ、7人が死亡した。国土の3分の2が水に沈んだ88年以来最悪の洪水と言われ、今後さらに低地部に拡大する可能性が高い。ネパールでは、この一週間の雨で少なくとも50人が死亡、数千人が家を追われている。それでも、中国同様、インドの多くの他の地域には干ばつの恐れも広がっている。

 ヨーロッパ

 02年は大洪水、昨年は猛暑と干ばつに見舞われたヨーロッパでも、異常気象は止まっていない。デンマークの6月は雨が降り続いた。ノルウェーでも高温多雨の異常な夏となっている。ドイツやフランスは冷夏気味で冷害が懸念される一方、東欧は猛暑で死者も出ている。このところ、秋から冬にかけての暴風雨が激しさを増している英国では、7月7日、季節はずれの暴風雨が吹き荒れた。イングランド東部・東南部の10万6,000の家庭で停電が起きている。

 欧州委員会は12日、洪水から人々を護るための洪水リスク管理に関するEU協調行動を、初めて提案した(Flood protection: Commission proposes concerted EU action)。提案された行動には、影響を受ける河川沿岸・海岸地域の洪水リスク管理計画、洪水のリスクのある地域を示す洪水リスクマップ、情報交換の協調、関連するすべてのEU政策のこの目的への寄与の保証、市民の啓蒙が含まれる。EUは98年から02年まで、02年のダニューブ・エルベ沿いの大洪水を含め、100の洪水大被害に見舞われている。98年以来700人が死亡、50万人が移住したという。欧州委員会は、洪水のリスクは数十年にわたり増えつづけるだろうと言う。降水の激しさが増し、海面が上昇するなどの気候変動の結果として、洪水の激しさと頻度が増すだろう。また、一層多くの人々が危険な地域に住み、また経済的資産(ビジネス、産業)もこのような地域に立地するために、洪水の影響も大きくなるだろう。その上、森林破壊、河川の直線化、自然の氾濫原の侵略、貧弱土地利用計画が、洪水リスクを大きく高めてきた。欧州環境庁(EEA)も極端な異常気象への組織的対応に乗り出そうとしているいることは、前に述べた(欧州環境庁、異常気象に組織的対応求める、ドイツは洪水被害軽減法制定へ,04.7.6)。

 日本に本拠を置く国連大学は6月、気候変動、森林破壊、海面上昇、人口増加のために、2050年までに世界で20億人が破滅的洪水のリスクに曝されることになるだろうという研究を発表した(Two Billion People Vulnerable to Floods by 2050;Number Expected to Double or More in Two Generations Due to Climate Change, Deforestation, Rising Seas, Population Growth)。既に10億の人々が100年に一回とされる洪水のリスクに曝されているが、これらの要因に関連した極端な気象事象の頻度の増大により、その数は倍になるという。また、氾濫原は最も肥沃な土壌を提供するから、一層多くの人々が危険地帯に進出することになるとも予想する。洪水による大災害は、50年代660年代770年代880年代1890年代26と、とりわけこの20年、急速に増大する傾向を示している。これがこれらの要因によるものだとすれば、洪水による大災害の頻度は、間違いなく、今後ますます高まるだろう。

 気候変動と異常気象の関連性に関する科学的確認を待ってなどいられない。緊急の本格的対応が必要だ。わが国の主要河川整備計画における洪水防止対策は150年に一回の洪水を基準に立てられている。だが、それでは、また現在の整備レベルでは、当面の大災害も防げないことが明白になった。中之島町の保育園が孤立、園児と職員は幸いにも救出されたが、EEAも指摘するように、とりわけ病院、埋立サイト、化学施設、老人ホーム、学校、保育所などの立地の見直しは緊急を要する。多大なコストを要する大変な難題だけに、なおさら速く検討にかからねばならない。