農業情報研究所

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ヨーロッパの気候予測:ホットとウエット

農業情報研究所(WAPIC)

00.11.1

昨日、欧州委員会の委託によりイースト・アングリア大学の専門家が行なったEUに対する気候変動の影響の包括的評価が、ハーグでの国際気候変動会議(COP6)に先立って、ロンドンの記者会見で発表された。この報告は、2001年中頃に発表される気候変動に関する国際パネル(IPPC)による第3回地球温暖化評価に対するヨーロッパの寄与をなすものである。

2100年までにヨーロッパの気候がどう変化するかに関するこの報告は、影響が地域により全く異なることを示唆している。なお10月の嵐に襲われるイギリスのような北部諸国では、洪水による一層の氾濫が予想される。それとは対照的に、南部では非常に暑くなり、観光産業が被害を受けることになる。また、アルプスの全氷河の半分が今世紀中に消滅する。

 BBC News Online(11.1)が伝えるところにより報告の結論を要約すると次のようになる。

 ●ヨーロッパの気温は、10年ごとに0.1℃から0.4℃高くなる。

 ●寒冷な冬は2020年までに稀になり、2080年までにほとんどなくなる。

 ●そのときまでに、ほとんどすべての夏は、この10年に経験した最も暑い夏よりも暑くなる。

 ●降雨・降雪は、北部ヨーロッパでは10年ごとに1%から2%増加し、南部ヨーロッパでは多少少なくなる。

 ●地球の海面は、2050年までに13cmから68cm上昇する。

 特に冬期には、豪雨・豪雪の頻度が増すとも言う。中南部ヨーロッパでは夏の旱魃の危険が増え、また強風の頻度が増す。

 ヨーロッパの平均気温は、最高に暑い10年間であった1990−99年を含む20世紀の間に、既に、約0.8℃上昇している。1900年以来、北部ヨーロッパの降水量は10%から40%増加し、南部では20%減っている。また、1960年以来の平均植物生長期間は、およそ10日長くなった。

 報告は、メキシコ湾から北西ヨーロッパに向かう暖流系が気温上昇と結合する危険に直面し、熱塩循環のシフトによって誘導される一層激しい気候変動に繋がるかもしれないと警告している。

 その他の予想される結果としては、洪水の危険の増加、一層厳しい水不足、雪崩と土砂崩れの増加、土壌の劣化がある。観光客は地中海の熱波とアルプスの当てにならない降雪を避け、北部ヨーロパ観光が増えよう。

 悪疫の拡散による人の健康リスクが増し、野生生物種の絶滅の可能性もある。しかし、報告は、損失と同じく利益もあることを明確にしている。冷房のためにより多くのエネルギーが必要になるが、暖房のために必要なエネルギーは減る。生態系と大部分の作物の純生産性は上昇し、北部ヨーロッパの営利活動の成長は速まる。輸送も問題に直面するが、西部ヨーロッパでは凍結と雪の減少で利益を受ける。保険業への請求は急上昇するだろうが、長期的には適応できる。

 温暖化は、開発と環境の管理に関するEUの政策にとって大きな含意をもつ。報告の中心的著者であるマーチン・パリィ教授は、BBC News Onlineに次のように語っている。

 「気候変動に挑戦する我々の弓には二つの糸が必要である。温室ガスの排出を減らさねばならないだけではない。我々は、我々のエネルギーと想像力を、温暖化がもたらすものへの適応にも注がねばならない。明白なことは、我々の排出がどうなろうとも、気候変動が蓄積されていることだ」。

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