温暖化でコメ収量が大きく低下、国際稲研究所農場の現場研究で確認

農業情報研究所(WAPIC)

046.30

 新たな研究により、地球温暖化がコメ収量を大きく低下させる可能性が確認された。今までもそのような議論がなかったわけではない。しかし、ほとんどは実験室での試験や気候と作物収量に関するコンピュータ・モデルに基づく推論でしかなかった。だが、ネブラスカ大学のKenneth Cassman 等によるこの研究は、フィリピンの国際稲研研究所(IRRI)農場における12年間のコメ収量と25年間の気温のデータに基づくものだ。それだけに、この結論は一層の迫真性を帯びている。研究は全米科学アカデミーのProceedingsの28日付オンライン・アーリィ・エディションで発表された(*)。

 研究によれば、25年間で0.35℃上昇しが昼間平均気温は、収量にほとんど影響しなかった。しかし、平均で1.1℃上昇した夜間気温の上昇と収量減少には強い相関関係が認められたという。著者たちは、成長期の夜間気温が1℃上昇するごとに、収量は10 %減少すると計算している。収量減少のメカニズムは解明されたわけではないが、夜間の気温が上昇するほどに呼吸が増え、成長と穀物生産に使用されるエネルギーが減るからではないかと推量されている。

 この報告に関する報道(**)によると、Cassmanは、「マランソの世界記録は、高温のときに走れば自分を維持するために一層のエネルギーを要するから、涼しいときに出る。同様な現象が植物に起きている」と説明している。また、この研究に参加していないコーネル大学の土壌・作物・大気科学のティム・セッター教授は、夜間気温が高まると、「炭水化物が非生産的に消費され、特に開花と結実早期に炭水化物の貯蔵が減ることにより、穀粒の数が減る可能性がある」と指摘している。

 従来、地球温暖化の原因となる大気中の二酸化炭素の増加が作物収量を増加させるといった実験的研究もあった。だが、現場の現実を直接に追ったこの研究の意味は重い。やはり研究に参加していないノースカロライナ州立大学のMary M. Peet教授は、「特別なロケーションでの収量減少を夜間気温の上昇と関連付けたこと」は重要で、「多くのモデルは地球の気候変動に伴う(二酸化炭素の)増加が気温上昇の影響を埋め合わせると仮定してきたが、このような現場のデータは、二酸化炭素のレベルが高くても、温暖化がマイナスの影響を与えることを明らかにする点で価値がある」と述べたという。

 報告は、温暖化による気温上昇が地球の増加する人口を養うことをますます困難にすると示唆している。このようなストレスに強い品種の開発に拍車がかかるのだろうか。だが、筆者は目下、そんなことよりも温暖化防止に全力を上げるべきだと考えている。温暖化は気温の上昇だけではない。日本を襲う台風は年々強力で、大型なものになっているが、類似の現象が世界中に起きている。大洪水などの気象災害は年々苛烈になり、高温による死者とともに、こうした災害による死者も増える一方だ。これも温暖化と関連しているという疑いがますます濃厚になっている。こうした情報はますます増えている。だが、政治家も財界も一向に動かない。地球温暖化とそれがもたらす結果に関する科学界のコンセンサスが完全にはできていないことも一因だろう。今は何を言っても無駄と心得てきたが、これを機に一言言わせて頂いた。

 我々は、稲の心配をする前に、自分自身の心配をしなければならない状況なのではないか。このまま温暖化が進めば、稲が生き残り、人間は死に絶えていたという身も蓋もない話になりかねない。

 *Kenneth G. Cassma et al.,Rice yields decline with higher night temperature from global warming,PNAS published June 28, 2004, 10.1073/pnas.0403720101 ( Agricultural Sciences ).

 **Report: Warming May Lower Rice Yield,AP (Jun 28, 2004).