欧州環境庁、異常気象に組織的対応求める、ドイツは洪水被害軽減法制定へ

農業情報研究所(WAPIC)

04.7.6

 熱波、干ばつ、大雨、強風、トルネード・・・、極端な異常気象が頻発する傾向が強まり、それによる災害も激化し、大型化している。科学者は、地球温暖化(人為的要因が関係した気候変動)がその原因であるとは確認していないが、この傾向が続き、ますます強まるだろうことは、地球に住むほとんどの人々が実感しているところであろう。地域の古老たちが生涯で初めての経験だという話す酷暑や大災害が、世界中で頻々と起き、その強度や頻度も増すばかりのように思われる。

 そのなかで、欧州環境庁(EEA)が極端な異常気象への組織的対応に乗り出そうとしている。6月25日にブタペストで開かれた世界保健機関(WHO)の環境と健康に関する第4回ヨーロッパ閣僚会合の「極端な天候事象と人間の健康」に関する分科会で、EEAのジャックリーヌ・マックグレード教授は、気候変動の影響の監視よりも、「極端な事象の間に何が起きるのか、EEAがどのように対応するのか」の方が重要だと演説した。彼女によれば、EEAは気候変動の影響を監視してきたし、7月半ばには、包括的な分析も発表する。だが、現在の差し迫った状況においては、それよりも、極端な異常気象への対応のみならず、人々がこれに備えるための計画化が重要だ。それは、忘れた頃に思い出すのではなく、組織的・計画的に取り組む必要があると言うのである。

 EEAは6月初め、EUにおける環境状況の趨勢を示す年次報告(EEA Signals 2004)を発表した。その中の気候変動に関する章は次のように述べる。

 気候は世界的にも、ヨーロッパでも、来るべき100年間、変化を続けると予想される。気候変動の人間と生態系の健康、経済的持続可能性への影響の証拠は増えつづけている。温室効果ガス排出の実質的削減は、ヨーロッパの短期的排出目標を達成するために必要であるが、気候変動の否定的影響を管理する適応措置も設けられねばならない。

 ヨーロッパの平均気温は、過去100年で0.95℃上昇し、2100年までには6.3℃上昇すると予想される。これは、世界の平均気温の上昇を2℃におさえようというヨーロッパの目標と対照的である。海面のレベルも過去1世紀に0.2m上昇し、さらに上昇するだろう。氷河への影響も見られ、一つの例外を除き、すべてのヨーロッパの氷河が後退している。

 気候変動の結果には、天候と洪水・嵐・干ばつなどの気候関連事象から生じる経済的損失が含まれる。ヨーロッパでは、この損失は過去20年に大きく増加、90年代には100億ユーロ(約1兆3000億円)に達した。破滅的な天候と気候関連事象の年当たりの数は、90年代、その前の10年の2倍に増えた。最大の経済的損失を受けた5年のうちの4年は、97年以後の年である。昨年の環境に関するヨーロッパの主要事象は気候に関連しており、例えば、夏の酷暑は、主として南ヨーロッパで3万6000人の命を奪った。前年夏の大洪水とは対照的に、ダニューブ、ライン、その他の主要河川の水位は記録的低さに達した。森林火災はポルトガルだけでも15人の命を奪い、9億2500万ユーロ(約1200億円)の損害をもたらした。

 植物成長期間は平均で20日延びたが、一部地域では成長を妨げる水不足のリスクが増えている。成長期間の変化は農業と自然保護戦略の適応措置と変化を必要にする。

 京都議定書は、先進国の温室効果ガス排出を08-12年までに90年レベルよりも5%減らすことを要求しているが、最近の研究では、気候変動の長期的復元のためには一層の削減が必要であると確認している。ヨーロッパとその他の地域が来るべき数年間の間に排出量を削減したとしても、排出削減が温室効果ガスの濃度、従って気候に影響を与えるには時間がかかるから、気候システムは数世紀にわたり変化を続けると予想される。従って、排出削減に加え、最も影響を受けやすい途上国だけではなく、ヨーロッパでも、気候変動への適応がますます必要になる

 先の会合でのマックグレード教授は、EEAは既に、去年夏のイタリアとポルトガルの森林火災勃発の間の火災の分布状況を示す衛星画像をウエブサイトに掲げたと言う。国民が火災がどこに広がっているかの地域情報を得られなかったこの事件の後、ウエブ利用が大きく広がったことを考慮したという。このような場合、地方緊急事態当局がすべての公衆と接触を保ち続けるのは困難だし、更新されたすべての局地的情報源は利用が殺到するから、EEAのサイトが代役を果たす。 

 さらに、EEAは、「In Your Backyard」と呼ばれる環境に関する地理関連公衆情報サービスを建設中で、極端な事象の地方レベルでの影響を適切に予測するために、ヨーロッパの広範な気候変動影響シナリオに関する適応と被害軽減のシナリオを開発しつつある。その分析は、現在100年に1度の洪水と考えられているものが、2080年までには10年に1回の洪水となるだけでなく、強度も規模も増す事実を強調することにも役立つという。

 そして、このようなシナリオは、防災・緊急事態当局の対応だけでなく、病院や埋立サイト、化学施設の立地を一層用心深く決める必要性のためにも重要になる。ヨーロッパ中で、多くの病院、老人ホーム、学校が氾濫原にある。彼女は、「極端な事象は我々を驚かしつづける。昨日、突拍子もないトルネードがドイツを襲い、何軒かの家を巻き上げ、死者と怪我人が出た。我々は、ヨーロッパについての「デイ・アフター・ツモロー」のビジョンを強調したくはないが、極端な事象のモデリングは、来るべき数十年の熱波、水不足、洪水の影響を回避し、あるいは少なくとも減らすために、適切な[政策]決定に統合されることが不可欠である」と言う。

 このような折、ドイツが洪水被害軽減策の策定に動いている。02年8月、エルベ河沿いの財産所有者は、破滅的な洪水被害に見舞われた。記録的洪水は、家屋、庭、その他の所有物件を押し流し、90億ユーロの損害を与えたと言われる。以来、シュレーダー政府は、河沿いでの開発を制限する法律の制定を議論してきたが、7月2日、下院での法案承認を勝ち取った。エルベ河の氾濫原での新たな建設を禁止し、農民に対しては河に隣接する畑での周年作物以外の作物栽培を許さず、特に侵食されやすい氾濫原では、2013年から一切の作物栽培を禁止する。上院は9月24日に審議する。

 トリッッタン環境相は、氾濫原での住居と小売業の開発者は明日の洪水犠牲者だ、堤防も洪水を止める保証はないと考えるべきだと述べたという。農業者団体は、栽培禁止は洪水防止と何の関係もないと反発、キリスト教民主党の一議員は、禁止はコミュニティーとアグリビジネスの開発能力に対する大きな打撃と法案を攻撃している(Germany Moves to Limit Flood Damage,DE-World,7.2)。

 100年に1回の大洪水が10年に1回も襲うようになれば、このような荒療治も必要になろう。マックグレード教授が指摘するような施設のみならず、住宅、農地の移転も必要になるだろう。しかし、当面の利益の損失は大きく、このような計画の実施は難航必至であろう。

 それでもこのような議論が行なわれているだけでも救いにはなる。日本でも、台風は年々強度を増し、大型化している。前代未聞の集中豪雨も増えている。夏の暑さも増すばかりだ。財界のお偉方や政治家は、冷房の効いた車で、冷房の効いた建物を行き来するだけだから、汗を拭き拭き照りつけるホームで電車を待つ庶民の苦労は分からない。その庶民も、休日となれば、冷房を効かした車でデパートやスーパーにお出掛けだ。6月としては史上最大・最強の台風6号が襲っても、観測史上初めての集中豪雨が新幹線を止め、石垣イチゴの石垣を壊しても、温暖化への取り組みを最優先する参院選候補はゼロだ。温暖化が大洪水を招くという事実も知らない国民が多数いるという世論調査もあるくらいだから、これも仕方がない。