干ばつで崩壊に向かうオーストラリア農村社会

農業情報研究所(WAPIC)

04.8.17

 打ち続く干ばつ、インドでは種・農薬・肥料などを購入するめの借金で首が回らなくなった農民の自殺が相次いでいる。それほどではないが、オーストラリア農民のストレスも相当なもので、農村社会組織の崩壊が始まっているという。

 シドニー・モーニング・ヘラルド紙の報道によると、ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州の英国協会教区司祭(大執事)が、干ばつは農村・地域コミュニティーの深刻な衰弱を引き起こしていると警告した(Drought rips social fabric,smh.com,8.8)。司祭によると、干ばつがコミュニティーに巨大なストレスを生み出した結果、感情的・心理的な重圧が感じられる。「それはNSW農村の社会組織全体に影響を与えており、社会組織は崩壊しつつある。早急な回復はなさそうだ」と言う。

 人々はますます土地を棄てるようになっており、農村にとどまる選択をする人々はますます高齢化している。婦人組織のメンバーも減り続け、高齢化している。NSW農村のインフラストラクチャーは、干ばつが余りに長く続いたために、「真に危険」な状態にある。先月発表された最新の数字によると、州の87.3%が干ばつを宣言、6月の79.5%からさらに増えた。最近12ヵ月で最悪の数字だ。

 別の地区の司祭によると、干ばつの影響は、農民から町の商品・サービス供給者、学校、通常は農場で働く契約労働者まで、農村・地域コミュニティー全体に広がっている。彼は、干ばつが続き、人々が辺鄙な開拓地を棄てて沿岸を目指し、田舎町の人口が減れば、「我々は一層貧しくなる」と恐れる。

 大執事は、干ばつの重圧は、特にこれについて話すのが難しい男性にのしかかっていると言う。農民はカネがないから、パブのような集会場に集まらない。夫が農場を経営する一婦人は、「家族の生活にかかるストレスはものすごい。男たちはとてつもないストレスを抱えている」と言う。子供たちは家を去り、多くの婦人は現金を稼ぐために、10年前には滅多ななかった農場外の仕事に出ている。男たちは、仕事から帰ってもストレスの捌け口はどこにもない。専門家は、干ばつの影響は鬱病と自殺の増加につながる恐れがあると言う。

 干ばつの頻発が今後の長期的傾向となるとすれば、こんな救いのない社会が到来するのだろうか。