二酸化炭素削減は既存技術の僅かな変更で―ハイブリッド車普及が有効(米国の新研究)

農業情報研究所(WAPIC)

04.10.29

 地球温暖化の原因となる大気中の二酸化炭素の増加を抑えるための有力な手段として、しばしば植林が提唱される。植物は二酸化炭素を有機バイオマスに変えることで、これを大気から隔離するからだ。また、米国では、農業にかかわる二酸化炭素排出削減策として、不耕起栽培や作物栽培からの撤退のプログラムが重要な役割を与えられている。農地の有機物が分解されて二酸化炭素が放出されるのを抑えられるからだ。遺伝子組み換え(GM)作物が環境に優しいという主張の最大の根拠の一つも、それが不耕起栽培を容易にし、温暖化防止に貢献するということにある。

 だが、二酸化炭素削減には、このような土地をベースとする二酸化炭素隔離戦略よりも、燃料効率の高い車を普及させるほうがはるかに安あがりで効果的だと、米国デューク大学の二人の研究者が全米科学アカデミーの”プロシーディング”誌に発表した(*)。

 01年に米国が排出した化石燃料炭素は15億8,000万トン、世界全体の排出量の4分の1に相当する。研究者は、土地をベースとする隔離戦略と燃料効率的な車による排出削減を比較することで、二酸化炭素を年10%、すなわち1億6,000万トン削減するための戦略を検討した。

 分析結果によると、米国の農地のすべてを不耕起に変えれば、目標の3分の1ほどの5,900万トンを削減できる。また、年10%の削減には、米国の全農地の3分の1を林地に転換せねばならない。しかし、このような大規模な土地利用の転換には、想像を絶する社会・経済・環境上のコストが伴うだろう。研究者は、ハイブリッド電気自動車やジーゼル・エンジンの改良を通して低燃費の車を倍増させる方がずっと有効と提言する。

 米国では、自動車と軽トラックが排出する炭素は年に3億1,000万トンだから、これを半減させることで目標を達成できるという。研究者は、二酸化炭素削減のためには、農地管理、低燃費自動車、更新可能なエネルギー源などの複合戦略が最も有効なアプローチだと強調する。

 このような車は、現在は普通の車よりも数千ドルも高い。普及の困難が予想される。しかし、10月25日付の”ネイチャー”のニュース(**)によると、研究を行なったジャクソン氏は、この研究は既存技術の僅かな変更で米国の排出がいかに大きく減らせることを強調するものだと言う。「我々は、今、しかも割安にこれができると言おうと試みている。消費者のための価格補助金、あるいはガソリン価格高騰がドライバーのハイブリッド車への転換を促がすことができる」と示唆する。また、ワシントン・カーネギー研究所の地球気候変動専門家のクリス・フィールド氏も、車によってこんな違いが出ることを示すのは「まったくもって重要」と同意、これは有益な計算だと言う。

 ブッシュ政府は、自主的な排出削減と、水素燃料電池車開発や核エネルギーなどの推進による燃料効率の長期的改善を強調して京都議定書を離脱、今すぐできる二酸化炭素削減をさぼっている。米国にはこのような批判が渦巻いている。この研究は、このような批判に味方するだろう。フィールド氏は、米国がドラスティックな手段を取ったとしても、12年までに90年レベルから最低5%を削減するという京都議定書が要求する先進国の目標の達成(これは現在のレベルからの30%削減を意味する)に苦闘するだろう、これを達成する単一の政策や技術はなく、あらゆる政策・技術の複合に望みが託されると言う。

 わが国でも、京都議定書の目標達成はほとんど絶望視される状態にある。02年の二酸化炭素排出量は削減目標を13%以上も上回り、目標達成のためには、二酸化炭素換算13億3,100万トンから11億6,300万トンまで、およそ1億7,000万トン減らさねばならない。ちなみに、運輸部門からの排出が21%(約2億6,100万トン)だから、その9割(2億3,500万トン)が自動車からのものとして同様な計算をすると、米国同様、これを半減させれば目標達成ということになる。環境税や排出権取引、早期には実現・普及が難しい新技術の開発が焦点になっているが、このような米国での議論に改めて耳を傾けるのも重要ではなかろうか。 

 *Robert B. Jackson and William H. Schlesinger,Curbing the U.S. carbon deficit,Proc. Natl. Acad. Sci.,Online Early Edition,04.10.28,DOI. 10.1073/pnas.0403631101.
 **Fuel-efficient cars enough to curb US greenhouse gases