北極温暖化研究発表延期に科学者が反乱 エリザベス女王もブッシュの政策に懸念の発言

農業情報研究所(WAPIC)

04.11.2

 発表が米大統領選後に延ばされた北極温暖化研究

 北極の温暖化が急速に進み、地域の共同体、環境、経済活動に深刻な影響を与えており、与えるだろうという研究の発表が米国大統領選挙後に延期されたことで憤怒が収まらないヨーロッパの研究参加者が、その一部をニューヨーク・タイムズに提供した(Big Arctic Perils Seen in Warming,The New York Times,10.30)。この研究結果は9月に発表されるはずであったが、米国の大統領選挙に配慮してか、選挙後に延期されたらしい。研究を委嘱した北極委員会議長は否定するが、調査を指導した米国の海洋学者であるロバート・R・コレル博士は、発表の時期は科学者不参加の外交的議論で決められたと言う。

 この研究は、北極圏に関係する8ヵ国(米国のほか、カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン)が委嘱したもので、300人ほどの科学者と地域の土着共同体の長老たちが参加した。4年間に及ぶ北極の包括的研究という。

 ニューヨーク・タイムズに提供された報告は、「気候の歴史的変化の一部は自然の原因と変動から生じたものだが、最近数十年に出現した変化のトレンドとパターンの強まりは、主として二酸化炭素やその他の温室効果ガスの排出の増加から生じた人間の影響が、今や支配的要因であることを示す」、北極は、「今、地球上で最も急速で、厳しい気候変動を経験しており」、「来るべき100年間にわたり、気候変動は加速すると予想され、重大な物理的・生態的・社会的・経済的変化を引き起こす、その多くは既に始まっている」と述べる。

 科学者たちによれば、北極は他の地域以上に急速に温暖化すると予測している。一部は、雪と氷が溶け、反射面積が減ることで土地と水が吸収する太陽エネルギーが増えるためである。また、上層大気の冷気が低緯度では地表の空気と混じり合わないために、温暖化は地表で最も急速に進む。報告は、温暖化の影響は、過剰漁獲、人口増加、オゾン層破壊による紫外線レベルの上昇(両極地での条件)などの他の要因で一層強まると言う。

 「これら要因の総計が北極住民と生態系の適応能力を圧倒する恐れがある」、温室効果ガス排出の抑制の努力が変化の速度を緩め、共同体や野生動物の適応を可能にすることができるが、同時に、1世紀にわたる二酸化炭素を中心とするガスの蓄積を前提とすれば、さらなる温暖化と融解は避けられないと強調する。

 報告は、魚資源の増加、一部地域の農業や木材収穫の改善(成長期間延長)、北極水域へのアクセスの拡大など、温暖化の潜在的利益も認めるが、潜在的悪影響のリストははるかに長いと言う。

 海氷の後退は、北極熊、アザラシ、そしてこれらを主要食料源とする地方住民に破滅的結果をもたらす可能性が非常に高い。陸地の石油・ガス鉱床は、ツンドラが溶けるために、採掘が一層難しくなる。それは掘削輸送機が横断できる凍結季に限られるからだ。アラスカでは、北面スロープの「ツンドラ・トラベル」シーズンは、既に70年の200日から100日に縮まっている。

 報告は、北極の急速な温暖化の影響は地球規模のものと結論する。とくに、グリーランドの2マイルの厚さの棚氷の融解の加速は、世界中で海面上昇を引き起こす。

 高まるブッシュ政府温暖化政策への内外の批判―エリザバス女王も異例の政策介入発言

 地球温暖化の主因は人間活動により排出される温室効果ガスの大気中濃度の上昇であり、温暖化とその影響は既に地球のいたるところで感じられるという広範な科学的コンセンサスがある。にもかかわらず、米国ブッシュ政府は、人間活動の影響があり得ることは認めつつも、確実な科学的根拠はないと、ロシアが京都議定書を批准した今も、温室効果ガスの強制的排出削減に反対を続けている。ヨーロッパ科学者の今回の暴露は、こんなブッシュ政府への科学者の不満が爆発したものだろう。不満を募らせているのはヨーロッパの科学者だけではない。

 ニューヨーク・タイムズ紙は先週、政治的には自ら保守中道と言うアメリカ航空宇宙局(NASA)の気候専門家が、排出強制削減を2012年まで見送ろうとするブッシュ政府の政策は何もしないに等しく、余りに遅すぎると批判していると報じた(NASA Expert Criticizes Bush on Global Warming Policy,The New York Times,10.26)。これは、大統領のお膝元での不満の高まりを象徴するものだ。

 外、とりわけヨーロッパの不満の高まりは頂点に達したようだ。地球温暖化への取り組みではブッシュよりもケリーのほうがマシ(先のNASA専門家は、原発推進の姿勢には疑問を呈し、京都議定書復帰を約束するわけでもないが)と、外国ではケリーを推す声が高まっている(Kerry Wins Fans Abroad with Global Warming Plan,Reuters,10.27)。極めつけは、英国・エリザベス女王が、異例中の異例な政策への介入発言、米国の温暖化政策への重大な懸念があるとブレア首相に警告を発したことだ。女王は、首相が米国への働きかけを強めるように要請した。英国における相次ぐ天候異変が女王をこのような異例の行動に走らせた(US must act over climate says Queen,The Observer,10.31)。

 日本もいずれ、国際的集中攻撃に曝されることになるかもしれない。