温暖化とその影響―オーストラリア、スイス、中国、米国の最新情報

農業情報研究所(WAPIC)

04.11.16

1.オーストラリア、2030年までに35℃以上の日が倍増、干ばつ・豪雨がますます頻繁にー英連邦科学・産業研究機関

 オーストラリアの連邦機関・英連邦科学・産業研究機関(CSIRO)が15日、温室効果ガスが導く気候変動で、干ばつ、熱波、豪雨、強風がますます頻度を高めると予想する報告を発表。シドニーを抱え、最も重要な農業生産地域をもつニュー・サウス・ウェールズ(NSW)では、25年以内に35℃以上の日が倍増する。この研究はNSW政府が委嘱した。

 最悪のシナリオでは、NSWの干ばつの頻度は、2030年までに70%上昇する。現在35℃以上の日は平均して20日だが、これが倍増する。一部地域(Walgett)では、35℃以上の日が70年までに150日にもなり、40℃以上の日も現在の9日から30年には23日、70年には83日になる。

 なお、オーストラリアの現政府は米国に同調、京都議定書批准を頑強に拒んでいる。しかし、これでは住民はまともな生活はできないし、農業生産もガタ落ちになるだろう。

 Australia Faces Weather Blitz from Warming-CSIRO,Reuters,11.15

2.スイス・アルプスの氷河、2025年までに3分の1が消えるーチューリッヒ大学

 チューリッヒ大学の新たな調査によると、スイス・アルプスの氷河が従来の予想以上に速く溶ける。その面積は、今後15年で5分の1、2025年までには3分の1が失われる。85年から2000年までには18%が失われた(アルプス全体では22%)。73年から85年までには1%失われただけだった。

 Les glaciers suisses fondent plus vite que prévu,Edicom.News,11.15

3.中国、温暖化と異常気象で2030-50年の食料生産は10%減少ー国連提出リポート

 香港紙”South China Morning Post”のウエブサイトに11月10日付で掲載された”Climate change to cut output of grain”と題する記事が、9日に発表された温室効果ガス排出に関する中国初のリポートについて伝えている。この報告書は、400人以上の科学者による3年間の研究に基づく。

 中国本土で94年に排出された二酸化炭素は26億トン、メタンは3,429万トン、窒素酸化物は85万トンと報告、更新されたデータとその他の報告は2年ほどのうちに発表される。

 報告は、過去数十年、中国本土が極端な天候条件を経験してきたことを認める。

 「過去40年の観測からして、中国主要河川の流量が減少してきたと見られる。80年以来、中国北部平野では干ばつが継続する一方、南部では洪水関連災害が頻繁に起きた」、「影響は90年代から大きく強まった」。

 「シミュレーションは、現在の作付体系、作物品種、管理レベルの下では、2030年と2050年の間に、気候変動と極端な気候事象のために、食料生産が10%減少する可能性を示す」。

 気候変動国家調整委員会副事務局長は、過去10年の温室効果ガス排出は経済急成長のために増加、二酸化炭素排出量は年率4%の増加をしてきたが、国民一人当たりの温室効果ガス排出量は先進国に比べればずっと少ないと言う。

 Chinese report says climate change to affect grain production - HK daily,BBC,11.10

4.温暖化は既に米国の生態系と野生動物に重大な変化を呼ぶに十分ー米国Pew Center reports

 人間が引き起こした世界と米国の気候変動に対応して起きている生態系の変化に関する広範な諸研究をレビュー。とりわけ、ツンドラの融解によって、それが二酸化炭素の純吸収源でなく、純放出源に変わったという指摘は、温暖化が温暖化を加速する過程が始まっていることを示し、重大な意味がある。

 ・気候変動の結果が既に米国の生態系の内部で発見できると結論するに足る十分の研究が存在する。

 ・植物の開花や動物の繁殖期など、重要な生態事象のタイミングが変化しており、これらの変化は米国の気候の変化に結び付いて起きた。

 ・一部植物と動物の棲息域が北、高地に向かって移動した。メキシコで減り、カナダで増えている種がある。赤キツネが北に移動して、北極キツネの生存を脅かしている。こうした変化は鳥類、哺乳類、潮間地無脊椎動物、植物など、多様な生物で観察される。これは種の相互作用を変え、米国の生物多様性を脅かす恐れがある。

 ・コミュニティーの種の構成が地方の気温上昇と協調して変化。コミュニティー内部の種の増減は種間の関係も変え、種の構成の変化は重要な競争・捕食関係も変えて、地方・地域の生物多様性を減らす可能性がある。北部冷水種が支配的であったモントレー・カリフォルニアの潮間地コミュニティーに、海洋温暖化に対応する南部温暖水種が侵入してきたのがその典型例。

 ・炭素循環・貯蔵のような生態過程が気候変動により変えられた。成長季の長期化は二酸化炭素の年間サイクルを変える。アラスカのツンドラは、暖冬が以前に土壌中に貯えられた植物性物質を分解して二酸化炭素を放出することを可能にしたから、二酸化炭素のネットの吸収・固定源から、ネットの放出源に変わった。ツンドラ同様、亜寒帯森林も、気候に媒介される水ストレス、病害虫発生、森林火災の増加のために成長が減り、炭素排出減になってきた。より低緯度の48州の森林では、伐採や農地放棄に続く森林の再生のために、この数十年は逆の方向への変化が見られるが、これは森林の成熟と同時にストップすると予想される。

 ・気候変動が米国の生物システムに影響を与えているという研究結果は、異なる地理的スケールや多様な種に一貫しており、これらの米国の影響は地球的趨勢を反映している。

 ・米国全体の野生植物・動物における観察された変化と人為的な温室効果ガスの世界的増加の間の関連が現われている。

 ・生息地の破壊や分断、侵略種の導入、汚染などの既存のストレスに気候変動が加わると、米国の生態資源の将来の保全への重大な挑戦となる。

 ・将来は、北方や高地への移動は困難になり、絶滅のリスクが増える。土地が人工的に分断されているから、長距離移動で絶滅を免れるという従来の大量移動は難しくなる。都市や農地に適応しない種は小さな地理的区域に閉じ込められ、既に希少または絶滅が危惧される種、あるいは高い山頂に棲む種は、高レベルの絶滅のリスクに曝される。

 ・気候変動の米国の生態系への悪影響の軽減は、移動を可能にする自然地域の連結、自然保護区のダイナミックな構想と管理計画の推進、既存の他の人為的要因によるストレスの緩和を含む広範な戦略を通じて容易にされる。

 OBSERVED IMPACTS OF GLOBAL CLIMATE CHANGE,by Camille Parmesan of The University of Texas at Austin and Hector Galbraith of Galbraith Environmental Sciences and the University of Colorado-Boulder,Pew Center,04.11.9