G8サミット 気候変動で前進なし 他方で海面急上昇の新たな証拠

農業情報研究所(WAPIC)

05.7.9

  英国スコットランド・グレンイーグルズで開かれたG8サミットがロンドンの同時多発テロの喧騒のなかで閉幕した。ブレア首相がこの会合の最大のテーマに選んだのが、アフリカの貧困削減と地球温暖化対策であった。前者については、決して十分ではないとはいえ、債務削減や開発支援増強で一定の前進があった。しかし、後者については、実質的には何の前進もなかった。米国・ブッシュ大統領が京都議定書を拒否する従来の態度を変えることがなかったからである。

  6月7日、再選後初の訪米でブッシュ大統領との会談に臨んだブレア首相は、人間活動がもたらす温暖化とその影響は科学的にはなお不確実、温暖化ガス排出の義務的削減は米国経済に計りしれない悪影響を与えると即時の行動(京都議定書による義務的削減)を拒否し、技術開発で排出を削減しようとする大統領の態度をグレンイーグルズで変えさせようと懸命な説得を行った。この会談を前に、全米科学アカデミーを含む10ヵ国ー米国、英国、フランス、ロシア、ドイツ、日本、イタリア、カナダ、ブラジル、中国、インドーの科学アカデミーも、温暖化ガス排出削減のための迅速な行動を要請、遅れは多大なコストを生むことになるという声明を発表、ブレア首相を後押した。だが、大統領には馬耳東風であった。

 会合の最後で発表される共同声明の文言は次々とトーンダウンを迫られた。8日に発表された共同声明(http://www.fco.gov.uk/Files/kfile/PostG8_Gleneagles_Communique.pdf)は、問題が「深刻な長期的挑戦」であり、温暖化が人間活動に起因することを認め、「我々の気候科学の知識には不確実性が残るとはいえ[米国を同意させるための挿入句]、我々は科学が正当化するように、温室効果ガスの増加を抑制し、止め、減らす道に進むために、今、行動するには十分であることを知っている」と言うところまで進んだ。だが、行動の確たる目標も時間的スケジュールも欠き、「迅速な行動」を約束するどころか、せいぜい「逆戻り」だけは何とか回避したと言うべきものにとどまった。

 声明は、すべての国が同意できるクリーン・エネルギー技術への投資の重要性を強調する。だが、このような投資のタイム・スケジュールはない。京都議定書がその一環をなす国連気候変動枠組み条約が問題への挑戦の最善の方法であることも認めた。米国も含む8ヵ国は、これが問題の研究のための適切な枠組みであることに合意した。だが、これだけで不十分なことは明らかだ。気候変動への対処は、今や手遅れに近く、多くの科学アカデミーが認めたように、「迅速」、「緊急」の行動が不可欠だからだ。

 だが、この会合には、ブッシュ大統領の「孤立」を際立たせたというメリットがある。この会合に特別に招かれた途上国グループー中国、インド、メキシコ、南アフリカーは、問題への挑戦には京都議定書の約束の先進国による実行が不可欠であることを強調する共同声明を出した。議定書の排出強制削減アプローチを拒否し続けるブッシュ大統領への挑戦であることは明白だ。米国内でさえ、京都議定書を拒否し続けるブッシュ大統領への不信が日増しに高まっている。強大化するハリケーン、集中豪雨、干ばつとそれに伴う破滅的な森林火災の頻発、氷河の融解がもたらす生態系激変(先月訪れたワシントン州でも、地域の一大水源であるレーニア山=下の図の氷河が急速に溶解しつつあり、将来の水不足・干ばつにつながる警鐘を鳴らすテレビ放送が盛んに行われていた)、温暖化ととも激化するこれらの脅威を、米国民は日々実感している。大統領の抵抗も長続きはしないかもしれない。

 折りしも、温暖化とそれがもたらす地域社会への脅威に関する新たな「科学的」証拠が、またひとつ加わった。8日付けのワシントン・ポスト紙によると(NASA Able to Pinpoint Changes in Sea Levels,The Washington Post,7.8)、NASA ゴダード宇宙飛行センター寒冷地科学部門を率いるWaleed Abdalatiが7日の記者会見で、NASAの科学者が一連の新衛星と観測システムを通じて海面レベルがいかに急速に変化しているかを初めて確認できると発表した。

 記事によると、科学者たちは、1990年代早期から海面レベルを直接測定してきた。しかし、最近に至るまで、これらの変動が近くの陸地の変化にどれほど反映したかを決定する能力を欠いていた。専門家は、過去1世紀に海面レベルがどれほど上昇したかについての様々な推計を提供してきたにすぎない。しかし、今や、海面は過去50年の間に年率0.07インチ(1.8mm)の速度で上昇したが、過去20年にはこれが0.12インチ(3.0mm)に加速していることを知った。

 NASAは、氷床の表面にレーザーを放つ衛星や陸地面積がどう変化しているかを測定するための二つの衛星などの海面レベルの変化を測る手段を使用している。最近の海面上昇の半分は氷が解けたためで、残りの大部分は海水温の上昇のためという。最近、南極半島の1万年来の氷床がたった3週間で溶解した。NASAの科学者であるEric Rignotは、「これらの氷河は考えていたよりはるかに急速に溶けている」と言う。

 フロリダやルイジアナの沿岸住民も、低地沿岸地域をもつバングラデシュやその他の国々の住民同様に、海面上昇による多大な脅威を免れない。プリンストン大学のMichael Oppenheimer教授は、このような数字は即刻の行動を正当化する例証だと言う。彼は、地球防衛基金が主催した6日の電話記者会見で、「これは地球温暖化が将来のことではないというメッセージだ。地球温暖化は既に起きている」と語ったという。ペンシルバニア大学のRichard Alley教授は、科学者は一層の情報が蓄積されれば、公衆に対する情報を改善できると言う。

 このような科学的知見の蓄積と、それに基づく国民に提供される情報が、大統領の立場をますます孤立に追い込んでいくだろう。