欧州委、干ばつによるEU作物生産減少を予測 イベリア半島は過去30年で最悪

農業情報研究所(WAPIC)

05.7.18

  欧州委員会が15日、今年のEUの作物生産は、主として干ばつ条件のために、少なくとも昨年を2800万トン下回るという見通しを発表した。ただ、穀物の収穫は、全体としては過去5年間の平均並みという。(Commission publishes forecast of cereal production: loss due to drought impact on Western EU Regions;Crop yield forecasts for 2005 and analysis of drought effects)。

 作物生産の減少は、主として影響を受けた地域における水資源に影響を与えた干ばつ条件と高温で説明でき、影響を受ける地域は今後も拡大する恐れがある。干ばつが続けば、作物生産は一層低下すると予想される。さらに、灌漑の制限がトウモロコシや砂糖大根、ジャガイモに追加的影響を与えるだろうという。

 穀物収量に関しては、2004年に比べ、デュラム小麦が24%(5年平均に比べて9%)、軟質小麦が5.2%(平均より5%多い)、大麦が10%(平均より僅かに少ない)減少し、トウモロコシは6%(平気より1%)減少する可能性がある。

 干ばつの影響を受ける地域は極度の干ばつに襲われた2003年よりは広がっていない。しかし、一部地域の状況は2003年以上に悪く、イベリア半島は過去30年で最悪の条件に直面している。フランスの西部・南西部では2003年と同程度の干ばつになっている。

 小麦生産地域で影響を受ける面積の割合は、今までのところ、2003年の53%に比べて27%とより限定されている。他方、現在の干ばつ条件は2004年11月に始まっており、3月から夏の終わりまで続いた2003年以上に長く続く。

 また、今年の干ばつは、ヨーロッパで最悪の凶年での一つをなした1976年と類似しているという。両年ともには年初から干ばつに見舞われた。ただ、春季の雨不足は1976年の方がひどかった。

 作物・地域別のより詳しい状況は次のとおり。

 小麦

 全体の収量は昨年より5.8%、1000万トン減少すると予想される。収量減少に最も大きく寄与する地域はデュラム小麦生産地域で、少なくとも24.3%、500万トンの減少が予想される。減少響は特にスペイン(デュラム小麦:75%、軟質小麦:57%)、イタリア(デュラム小麦:75%、200万トン)で特に大きく、フランスの軟質小麦は今のところ1.2%の減少にとどまると予想されるが、多くは小麦成熟期のパリ盆地の降水にかかっている。

 大麦

 収量は2004年より10%(平均より0.7%)減少、生産量は650万トン(2004年より10.5%、平均より4.2%)減少すると予想される。特にスペイン(42%減)、ポルトガル(55%減)、ギリシャ(17%減)、フランス(今までのところ3%減)、ドイツ(今までのところ1%減)、イタリア(3.7%減)、ベルギー(3.8%減)がこの減少に寄与する。2004年に比べると、ハンガリー(21%減)、ポーランド(13%減)、スロバキア(21%減)の減少も大きいが、これは2004年が例外的豊作だったからで、平均レベルに戻ることを意味する。

 トウモロコシ

 今のところ収量レベルは6%の減少にとどまり、生産量は2004年を650万トン下回るだけである。しかし、フランス南西部やイタリア北部の主要生産地域での貯水レベルが低く、今後数週間に十分な降水がないと、劇的減少を引き起こす可能性がある。

 コメ

 現在はイタリアとフランスで平均よりも19%の減収が予想される。スペイン南部では14%、ポルトガルでは30%の減収となり、2003年と非常に似たレベルになる。

 その他の作物

 その他の作物も、程度はもっと低いが、雨と貯水の不足で影響を受ける。EU25ヵ国の採油用ナタネは3%、ヒマワリは2%、ジャガイモは3%の減収が予想される。

 草地

 衛星観測によると、高温と結合した湿気不足のために、大陸南部・西部の放牧地・草地に影響が出ている。影響を受けている総面積は1970万ha(48%)。スペインとポルトガルが最悪、520万haが影響を受けており、ここでは全体のバイオマスが過去20年で最悪のレベルになっている。フランス、イタリア、ギリシャでは、干ばつの影響は「深刻」ではないが、「厳しい」という。その他の地域は通常と変わらず、中・東欧の一部地域の放牧地は非常に恵まれたシーズンになっている。

 ここではEU25ヵ国の状況が示されているだけだが、ノルウェーの農民も雨不足と異常な高温で大苦戦しているようだ(Farmers in despair over warm weather,Aftenposten,7.14)。

 2003年の大干ばつに続く今年の干ばつは、ますます激化する国際競争とともに、ヨーロッパ農業の暗い将来を予測させる。温暖化とともに、ヨーロッパの干ばつは今後もますます頻度と強度を増すと予想される。飼料用トウモロコシをはじめ、水不足に非常に弱い作物を大量に作り続ければ、干ばつ被害は増える一方だろう。品質面で競争力を有し、干ばつに強い作物を選択するなど、農業生産構造の再編に早期に取り組まず、相も変わらず原料作物の安売り競争にこだわり続ければ、ヨーロッパ農業の将来は暗い。ただ、現在の共通農業政策(CAP)の下で、農民は農学的改善よりも補助金漁りに走っている。大声で救済を叫ぶばかりで、本格的な農業再編の動きは当分現れそうもない。