米国熱波で37人死亡 米政府は中国・インドを抱き込む京都議定書抹消作戦

農業情報研究所(WAPIC)

05.7.29

 BBC Newsによると、厳しい熱波に襲われた米国で少なくとも37人が死亡したという(Dozens die in severe US heat wave,BBC News,7.28;http://news.bbc.co.uk/2/low/americas/4723233.stm)。

 東部の9州とフィラデルフィア、ワシントン、バルチモアの各市で警告が出された。人々が冷房設備のあるビルに避難したために、電力需要も記録的レベルに達した。ニューヨーク市の電力消費は1万2551メガワットの新記録に達し、ブルームバーグ市長が冷房された特別の公共”クーリングセンター”の開放を告げた。

 バージニア州では300人の子供が病気になった。南カリフォルニアのフローレンスとノースカロライナのラーレイ/ダーハムでは、26日の気温が記録破りの38℃に達した。

 アリゾナで最低28人、ミズーリで4人、オクラホマで2人、ケンタッキー、オハイオ、ミシシッピで各1人の死者が出ている。

 大部分の死者はアリゾナの中西部で出た。フェニックスで少なくとも20人が死亡、大部分はホームレスという。また、21人の移民がメキシコから米国に渡ろうとしているときに死んだという報告がある。ネブラスカでは少なくとも1200の家畜が死んだ。中西部では27日までに、寒冷前線が救いをもたらしたが、激しい雷雨にも見舞われた。南西部では、28日、焼けるような暑さが予想されている。

 米国人も、もはや大統領とその取り巻きを除き、誰もが温暖化とそれがもたらす悲惨な将来を疑わないだろう。とりわけ貧困のどん底で生き延びている人々には救いがない。

 そんな中、温暖化抑制のために途上国との協力を約束し、新たな技術の利用を促そうとする協定が28日に調印された。調印国は、米国、中国、インド、オーストラリア、日本、韓国。温暖化ガス排出を期限を定めて一定量削減しようとする京都議定書方式の温暖化抑制策を永久に葬り去ろうとする米国主導の試みだ。総排出量の21%を排出する米国に次ぐ排出国となっており、今後世界最大の排出国となるであろう中国(現在は15%)やインド(5.5%)をこれに抱き込めば、京都議定書方式の温暖化抑制策はほとんど意味をなさなくなる。

 29日付けのシドニー・モーニング・ヘラルドが伝えるところによると(Pact halves emissions by the next century;http://www.smh.com.au/text/articles/2005/07/28/1122143966688.html)、協定は、相互の利益と商業的利益を環境浄化の鍵として確認する”a new agenda”を開陳する。詳細は11月の会合で交渉するという。

 ダウナー外相は、「クリーンな開発と気候に関する新たなアジア太平洋パートナーシップ」は、温暖化ガス排出削減目標を定める京都議定書を「補完するもので、それに置き換わるものではない」と強調した。しかし、京都議定書への敵対を意識していることは明瞭だ。

 ハワード首相は、協定は京都議定書よりも公正で有効と述べた。彼は、「このテーブルについた6ヵ国は世界の経済、人口、エネルギー消費、そして温暖化ガス排出で半分以上を占める」と言う。ダウナー外相も、「気候変動は問題だと思うが、京都議定書がそれを止めるとは思わない」、「京都議定書には、ほんの僅かな成果を求めてあまりに多くの政治的エネルギーが投入された。我々は、それをはるかに上回ることを成し遂げてきた」と言う。

 ロバート・ぜーリック米国国務次官は、ラオスの東南アジア諸国連合(ASEAN)閣僚フォーラムで、新たな効率的なエネルギー技術の必要性を売り込み、「結果主義」のパートナーシップの死活的に重要な側面は、先進国と途上国の統一だと述べている。

 キャンベル環境相は、協定は将来別の国も受け入れ、拡張されるだろうと言う。ダウナー産業相は、日本は最初、これに加わることをためらっていたこと、パートナーシップは今年はじめの交渉で米国が提唱したことを明らかにした。

 計画の柱は、@気候変動協定は技術の利用を奨励することで温暖化ガス排出を削減するために結ばれる、A協定にはオーストラリア、米国、中国、日本、インド、韓国が参加する、B参加国はクリーン技術プロジェクトに資金を供給する基金に拠出する、C京都議定書と異なり、有害ガス削減の特定の目標は含まない、ということだという。

 このような動きに、環境団体や科学者は警告を発している。フィナンシャル・タイムズ紙によると、彼らは、現在放出されるガスが100年の気候に影響を与えるのだから、将来の技術的解決策に頼るのは危険だと言う。”地球の友”のカテリーヌ・ピアース氏は、「排出削減のための自主的措置に支えられた技術に関する協定は気候変動に挑戦することにならない。これは、京都議定書に調印した140の国の努力を台無しにしようとする米国・オーストラリア政府のもう一つの試みだ」と語ったという(Emerging economies seen as key to Kyoto treaty,Finacial Times,05.7.28,p.7) 。

 先のオーストラリア紙も示唆しているが、これは原発推進も加速させよう。スリーマイル島事故以来、一切の原発の新設が止まっている米国でも再開に向けた動きが出ている。環境団体の中にさえ、温暖化抑止の手段は原発増設しかないという声が聞こえる。中国は大量の原発建設を計画している。韓国でも、経済を犠牲とすることのない温暖化ガス排出削減には原発増設が不可欠という声が高い。米国は先週、インドとの核開発協力を約束した。しかし、これは、現に急速に進む温暖化を食い止めるのに間に合わないばかりか、環境と人類に新たな脅威を加えることになる。米国でさえ、核廃棄物の最終処分場(ユッカ・マウンテン)計画が未だに確定していない。

 打ち続き、ますます激化する干ばつは、多くのアフリカ諸国を飢餓の縁に立たせている。欧州は、2003年の猛暑と干ばつに続き、今年もそれを上回ることになるかもしれない干ばつに襲われている。オーストラリアの干ばつも年々厳しくなっており、国の輸出収入を支える大黒柱の農業が立ち行かない地域が増えている。中南米でも農作物の干ばつ被害が年々広がっている。中国では水不足と砂漠化が年々進む一方、巨大な洪水被害が頻々と起きている。今年の洪水・土砂崩れによる死者は、既に1000人に迫っている。タイでは水不足が年々深刻化する一方だ。

 年々の干ばつに悩むインドでも、しばしば大洪水に見舞われる。今週も救いの雨となるはずのモンスーンが大洪水を引き起こし、ムンバイ(ボンベイ)を中心とする処々で、少なくとも500人 以上の命を奪った(Death toll is 513 in Maharashtra,The Hindu,7.29)。死者は900人に近いという情報もある(La mousson a fait près de 900 morts dans la région de Bombay,Le Monde,7.28)。

 米国はハリケーンの強大化で大混乱、他方で多くの地域で干ばつと砂漠化が進む。4ヵ月にわたり雨なしが続くイリノイは、つい先日、102の州の全郡について自然災害地域宣言を出した。今年のトウモロコシ収穫は昨年より30%減ると予想されている。南部・北部の一部の郡では、収穫皆無の予想さえ出ている。

 今米国を襲っている猛暑、上に例示した諸事象が、人間活動に起因する温暖化とは無関係と断定できるなら話は別だ。しかし、そうでないとすれば、「将来の技術的解決策に頼るのは危険だ」という主張に与みするほかはない。 世界の多くの論調も、この協定を警戒の目で見ている。

 →関連情報・論調
 Climate pact panned as diversionary tactic,news@nature,7.28(http://www.nature.com/news/2005/050725/full/050725-12.html)
  US-led emissions pact seen as Kyoto rival,newscientist.com,7.28(http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn7744)
 Another Kyoto Protocol?,The Korea Times,7.29(http://times.hankooki.com/lpage/opinion/200507/kt2005072917030354040.htm)
 Six-country pact on clean energy 'not meant to undermine Kyoto',The Guardian,7.29(http://www.guardian.co.uk/print/0,3858,5250645-103681,00.html)
 US in plan to bypass Kyoto protocolThe Guardian,7.29(http://www.guardian.co.uk/print/0,3858,5249643-103681,00.html)