ポルトガルの森林火災は制御不能にー対症療法だけでは今後の備えにならない

 農業情報研究所(WAPIC)

05.8.17

 ヨーロッパ西南部が何十年来の厳しい干ばつに襲われている。フランスではほぼ3分の2に相当する62県が給水制限に追い込まれ(Sécheresse : 62 départements touchés par les restrictions d'eau,Le Monde,8.2)、灌漑水を大量に使うトウモロコシ農民に非難が集中している。それでもこれはマシなほうだ。スペインとポルトガルの状況は悲惨というほかない。

 スペインは60年来の干ばつと言われ、作物は死に絶え、森林火災が頻発している。2003年の猛暑と干ばつはかつてない森林焼失を招いたが、このような大災害は今後も増える一方のように見える。大規模森林火災は地域の生態系を一変させる。回復の間もなくそれが続けば、地域はますます他の”天災”にも脆くなるばかり、行き着く先は作物も植物も育たず、人も暮らせない”砂漠化”であろう。

 スペインでは、冬と春の降水が平年の37%、35%にすぎなかった。その後の高温が干ばつを加速、環境省の数字によると、貯水量は総能力の48.7%にまで落ちている。森林火災が頻発、7月半ばには11人の森林官とボランチア消防士が死亡、1万3000万haの森林が破壊された。年初以来の破壊森林面積は7万5000haと推定されている。

 ポルトガルの状況はさらに凄まじい。8月初めの一週間、400人の兵士に支援された3000の消防士が23ヵ所の森林火災と闘った。しかし、防火手段、特に水がない。昨年末以来焼失した森林は6万8000haにのぼった。これは天災ばかりとも言えない。80%を占める小規模所有者の森林が放棄され、もはや何の手入れも入らなくなったことが被害を大きくしているという(Le Portugal et l'Espagne connaissent une situation exceptionnellement grave,Le Monde,8.9)。

 16日付けのル・モンド紙の記事は、ポルトガルの森林火災は制御不能になっていると報じた(Portugal : une partie des nombreux incendies sont hors de contrôle,Le Monde,8.16)。600台の車と18機の航空機を持つおよそ2300人の消防士が、国の中部から北部にかけての数十の森林火災と闘っている。15日には、ポルトガルの19の全行政地域のうちの17地域は”最大限”または”非常に高い”警告を発した。1945年以来の今までの最悪の干ばつでも、9地域が”最大限”、2地域が”非常に高い”警告を出したにすぎなかったという。

 政府の推計では、今年の森林焼失面積は11万8000haに達した。専門家は、農業地域が放棄状態に置かれていることや、成長が早く・経済的収益性はあるが非常に燃えやすいユーカリやマツが支配的樹種となっていることを非難しているという。

 EUの欧州委員会は、2003年の森林火災がもたらした甚大な被害に鑑み、昨年、森林火災を制御するための加盟国の努力を支援すべく、リスクを予測するためのヨーロッパ森林火災情報システム(EFFIS)を立ち上げた。今月10日には、2004年の森林火災の影響に報告(http://inforest.jrc.it/documents/fires/2004-publications/Fire-Report-2004.pdf)を発表、来るべき年の森林火災予測と制御の基礎として役立てるという。

 しかし、このような努力も既に遅すぎたのかもしれない。また、それは、ポルトガルの例が示唆するような森林火災の頻発と大規模化、制御不能化の”原因”に挑戦するものではない。それだけでは、気候変動がますます進むと予想される将来への備えにはならない。そのためには、農業や森林・林業のあり方が問われねばならない。これは社会全体が目指す方向にかかわる。

 なお、今年も世界中が極端な異常気象ー大洪水を引き起こす大雨や厳しい干ばつーに見舞われている。ヨーロッパはこのような世界の縮図を提供している。フランスのル・モンド紙がこの縮図を提供しているので、それを覗き見ていただきたい(ヨーロッパ全域フランス)。