CO2レベル上昇で収量は増えない 今後50年の気候変動で飢餓人口が5千万人増加

農業情報研究所(WAPIC)

05.9.7

 気候変動は来るべき50年にわたり、以前考えられていた以上に飢餓に苦しむ人口を増やすだろう。多くの人が期待する重要穀物の収量が改善されなければ、状況は一層ひどいものになる。飢餓に苦しむ人々は現在よりも10%(5000万人)増える可能性がある。アイルランド・ダブリンで開かれた会合(the British Association's Festival of Science)で、英国と米国の研究者が暗澹たる研究結果を報告した。

 Climate food crisis 'to deepen',BBC News,9.5
 http://news.bbc.co.uk/2/low/science/nature/4217480.stm
 Climate change raises risk of hunger - scientists,Reuters via Yahoo news,9.5

 過去10年の気候変動の将来への影響をモデル化してきた英国気象庁ハドリー気候予想センンターの研究チームの一員であるマーチン・ペリー教授は、地球温暖化の原因と考えられる温室効果ガスの排出の急速な削減は農業への有害な影響に対抗できるだろうが、これは現在の京都議定書では達成されないだろう、「気候変動には惰性があり、いますぐに排出を止めたとしても、40年から50年は温暖化と乾燥化が進む」と言う。研究によると、新たに飢餓に曝されることになると予想される人々の大部分はアフリカの人々である。彼は、これは世界の諸政府がその開発目標を達成する必要性をはっきりと示すもので、人々に高い生活水準を与えることが既に起きつつある変化への適応の改善を可能にすると言う。

 これ自体が憂鬱な話だが、イリノイ大学の研究はもっと悪いシナリオを示唆する。

 研究者は、畑で作物を栽培、コンピュータで制御されたパイプとバルブのシステムを通して作物を高いレベルの二酸化炭素に曝してきた。以前の諸研究は、植物が自身を養うために大気から取り入れる二酸化炭素のレベルが高まれば、一部の場所では今後の収量が増えるだろうと示唆している。それにより、地球上のどこかの場所での降水と気温の変化から生じると予想される損失が相殺されるだろうという評価もあった。ところが、イリノイ大学の研究はもっと悲観的な結果を示す。

 同大学のスティーブ・ロング教授は、「二酸化炭素の増加による収量増加は予想の半分ほどでしかなく、トウモロコシー昨年、世界で他のどの作物よりも大きな収穫があったーの場合には増加はまったく見られなかった」と述べた。この実験ーFree Air Concentration Enrichment (Face)ーは、現実のフィールド条件を複製する初めての試みで、コメ、小麦、トウモロコシ、大豆などの広範な作物で行われた。二酸化炭素の豊富な世界で期待される収量増加は、どれについても達成できなかったという。

 教授は、この研究が間違っていなければ、来るべき50年間に2.5−5%とされる現在のアフリカ全体での収穫損失は、実際には10%になりうると言う。

 その上に、実験が作物収量を減少させることを示唆する大気の第二の変化ー北半球におけるオゾンのレベルの上昇ーがある。2050年までに予想されるそのレベルの上昇は大豆の収量を15%減少させることが分かった。これは将来像を一層複雑にすると言う。彼は、従って、現実はマーチン・ペリーの予想よりも悪化する恐れがあると言う。