砂漠縮小の中国 なお遠大な砂漠化との闘い 人類は砂漠化との闘いに勝てるのか

農業情報研究所(WAPIC)

06.5.31

   5月19日、国連砂漠化防止条約(UNCCD)とアルジェリア・イタリア・中国政府が共催する”女性と砂漠化に関する北京国際会議”が開かれた。ジェンダーの問題と持続可能な開発にかかわる当局者と専門家150人余りが経験を交換、土壌劣化と農村の貧困に有効に対処するために女性の能力を向上させる方法を探ろうとする会合である。

 これを機に、中国林業局次長が中国における砂漠化をめぐる状況を明らかにした。中国の砂漠は縮小し始めているが、砂漠化防止はなお遠大な課題であるという。

 Deserts shrinking by 7,585 sq km annually,xinhua.net,5.30

 発表によると、中国の砂漠は、前世紀末まで年平均1万400㎢の割合で拡大してきたが、現在は年に7585㎢の割合で縮小しつつある。これは、1990年代末以来、砂漠化がコントロール下に置かれるようになったことを示す。しかし、なお深刻な問題が残っているという。

 中国では264万㎢の農地その他の土地が砂漠化に飲み込まれており、これは国土の28%に相当する。砂漠化は、年に67億7500万ドル(約7600億円)の直接的な経済的損害をもたらし、およそ4億の人々の生活に影響を与えている。53万㎢の砂漠地域はコントロール可能だが、なお手がつけられないままでおり、資金の不足が砂漠化との闘いを妨げている。 中国政府は、砂漠化防止に年に2億5000万ドルを投資しているが、すべての回復可能な砂漠化した土地が再建されるのは2050年になるという。この目標の達成には、少なくとも298億ドルが必要になる。

 次長は、過放牧、過剰伐採、薪炭材採集などの有害な人間活動がなお存続しており、地球温暖化が趨勢を一層悪化させる恐れがあると警告した。中国政府は、立法の改善、環境を損傷する者への厳しい懲罰、国際協力の強化によって砂漠化を抑制する必要があると言う。

 中国の人口と家畜の増加は、少なくとも20世紀末までは砂漠の急速な拡大を引き起こしてきた。砂漠の縮小傾向は歓迎すべきことであろう。しかし、食肉需要がますます増加する今後、これは継続するのだろうか。アジア品種よりも大食いのフリージアンやシメンタールのようなヨーロッパ牛の導入も事態を一層悪化させたと言われる。砂漠化問題は解消に向かっているどころか、却って深刻化しているようにさえ見える。

 中国西部とモンゴルにおける砂漠の拡大は、近年、春の砂嵐をますます激烈なものにしている。それは韓国や日本にまで大量の黄砂を吹き付けている。恒例となってしまった中国北部の干ばつも問題を一層悪化させるだけだ。それは土壌から水分を奪い、簡単に風で飛ばされるようになっている。環境の悪化と砂漠の浸食で住み慣れた土地を追われる人々はますます増えるのではないかと予想される。 中国政府は大丈夫というが、北京オリンピックさえ砂嵐で開けないかもしれないとも言われる。

 中国政府は、大量の植樹計画を立ち上げ、脆い土壌での放牧を禁止し、灌漑を改善するなど、砂漠を押し戻すために闘っている。最悪の砂漠化に襲われた地域では、万里の長城に匹敵する巨大な”緑の壁”の建設にも着手した。人間活動による生み出されたと見られる砂地や砂漠を保護するために、5700kmに及ぶ壁を築くという。人為で破壊された環境を修復するためだけにさえ、気の遠くなるような闘いが必要だ。

 深刻な砂漠化問題に直面しているのは中国だけではない。人類は砂漠化との闘いに勝てるのだろうか。最近の研究は、熱帯が両極に向かって拡大しつつあることを明らかにし、それが乾燥地域の土壌劣化への脅威を増し、砂漠を拡大させる恐れがあると警告した。

 Enhanced Mid-Latitude Tropospheric Warming in Satellite Measurements,Science 26 May 2006:Vol. 312. no. 5777, p. 1179
  http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/312/5777/1179?ijkey=wM83pKh9xdm5I&keytype=ref&siteid=sci

 これは、1979年から2005年までの衛星データに基づく研究で、北・南半球のジェット気流が緯度にして1度、距離にして113km局地に近づいたという。ジェット気流は、亜熱帯の大気の温度が他の場所よりも急速に上昇しているために、局地に向かって押しやられた。ジェット気流は熱帯の境界を画するもので、その局地に向かっての移動は熱帯が広がることを意味する。研究者は、今世紀の間にさらに2度から3度動けば、サハラ砂漠のような極度の乾燥地域が数百マイルも南北に広がる、中東北部や南アフリカを含むさらなる地域が干ばつの増加と砂漠化に直面するだろうと言う。

 これが気候の自然の変動によるものなのか、それとも温暖化やオゾン層破壊のような人為がもたらした現象によるものなのかを明らかにするには一層の研究が必要というが、砂漠化との闘いがますます困難になることを予想させる。