東アジアは記録的豪雨 欧米は記録的猛暑 温暖化の影響への備えはなし

農業情報研究所(WAPIC)

06.7.26

 気象庁は26日15日から24日にかけて九州、山陰地方、長野県などを襲い、九州で5名、長野県で9名(行方不明者がなお2人)死者を出すなど甚大な被害をもたらした大雨を”平成18年7月豪雨と命名した。台風4号は中国に612人の死者と208人の行方不明者をもたらし、300万人以上の避難を強制した(Typhoon Bilis leaves 612 dead in China, while Typhoon Kaemi is coming,xinhua,7.24)。死者がなお増え続けるなか、さらに台風5号が追い討ちをかけようとしている。16日に韓国を襲った豪雨も、少なくとも20人の死者と33人の行方不明者を出した(Heavy rains kill at least 20 people in S. Korea,Yonhap,7.17)。この豪雨は、北朝鮮でも6万人に避難所生活かホームレスを強い、農地の冠水による10万トンの食料損失ももたらしたという(Flooding in N.K. displaces some 60,000 people, causes substantial crop loss: WFP,Yonhap,7.24)。

 東アジアで豪雨が荒れ狂うなか、欧米では干ばつと熱波がますます荒れ狂う。温暖化がもたらす破滅的影響がますます明瞭になってきた。それは温暖化した地球の縮図を提供している。

 この2週間の熱波によるフランスの死者は40人に達したとされる。フランス本土の県の半分以上に相当する56県に、上から2番目の危険度を示す警報が出された。保健相は、医学生から引退医師まで総動員する医療体制強化を要請している。

 La canicule devrait connaître un pic mercredi,Le Monde,7.25
 Plus de la moitié de la France touchée par la canicule, la vigilance s'impose,Le Monde,7.25

 ノール県ダンケルクの気温は38.6℃に達した。2003年夏に記録された40℃には達していないが、この暑さはまだ続くと予想され、通常は8月が最も暑い月だから、この記録に達する恐れがあるという。このような気象事象がヨーロッパ中で起きている。フランス気象庁は、地球温暖化との関連づけには慎重だが、このような例外的な年は1976年から2003年までの27年間に2つあるだけで、しかもこれが2003年から2006年のたった3年間の間に起きた、この事実は、世紀末までに極端な気象事象(嵐、豪雨、干ばつ、猛暑)がますます増え、繰り返されるという地球温暖化のシナリオに一致すると言う。

 Des températures aussi élevées qu'en 2003,Le Monde,7.24

 河川の水温上昇で、原発は基準を超える冷却水排水温度での操業を余儀なくされた。さらに水温が上がれば操業停止もあり得るだろう。

 猛暑のフランス 政府が基準水温を上回る原発冷却水排水を容認,06.7.24

 この熱波に伴う干ばつは、既に家畜飼料の不足への懸念を掻き立てている。農相は、家畜飼料のための休耕地利用の許可を欧州委員会に要請、7月27日の委員会決定を待っているという。

 Le Ministre de l’agriculture appelle à la vigilance sur les conséquences de la sécheresse,Agrisalon,7.25

 このような状況がヨーロッパの広範な地域のみならず、米国にも広がっている。

 ドイツ南西部、ベルリン地域の気温は39℃の2003年の記録に達すると見込まれている。25日、水深が1.2m以下になったエルベ川のハンブルグ上流5kmの航行を減らさざるを得なくなった。

 オランダでは、1万5000人が参加する4デーマーチで2人の死者が出て、この伝統あるイベントが中止に追い込まれた。

 ポー川が干上がりつつあり、河川の水位低下で水力発電能力が既に低下してきたイタリアでは、この一週間、トルネードと猛烈な雷雨が続いた。暑さのための重大な健康リスクがあることを意味する最高レベルの警報が出され、ローマ、トリノ、ベニスなどでなお維持されている。

 電力生産への影響も深刻だ。40℃の猛暑で12人の死者が出ているスペインでは、ガローナのサンタ・マリア原発が冷却水の温度上昇のために24日以来停止している。ポーランドでは、やはり原発の冷却水の不足のために電力生産が減り、輸出は止まった。冷却水不足で原発電力生産を減らしてきたチェコでは、25日、エアコン利用の急増のために電力供給業者が非常事態宣言を出した。

 L'Europe et les Etats-Unis également touchés,Le Monde,7.25その他。

 連日30℃を越える高温を記録してきたスイスでは、25日、7つの観測地点で35℃を超えた。この猛暑は未だしばらく続く見込みだ。森林火災の危険が高まっていることから、8月1日の国家記念日の各地の花火大会も中止される。河川の水位は気温が40℃を超えた2003年の危険レベルまで落ちている。河川の水温も28℃にまで上昇、バーゼルのライン川の水温も25℃となり、通常は凍っているアーレ川の水温も21℃にまで上がっている。18℃以上の冷却水の利用が許されない原発は、電力需要が最高になるときに15%までの生産削減を余儀なくされている。レタス、トマトなどの野菜農民も灌漑を強要され、生産コストは倍になったと言う。

 Le jour le plus chaud de l'année: il a fait 35,9 degrés à Sion,edicom,7.25
 Soaring temperatures take toll,NZZ,7.25

 大陸に比べれば、イギリスの状況はそれほど深刻ではない。しかし、各地で火災が荒れ狂っている。今月、リバプールだけでも600の火災が起きた。英国中の消防隊が数千の火災の消火に取り組んでいる。東南イングランドの一部地域では地下水面が1976年の干ばつ時に匹敵するほどに下がっているが、イングリッシュ・ネイチャーやナショナル・トラストは、目下の最大の懸念は火災の頻度と凶暴性だと言う。

 最も深刻なのは深い泥炭層をもつピーク地方国立公園の火災で、6日間にわたり燃え続けている。英国最初の自然保護区に指定されたサースリー・コモンは、ヒースの土地から始まった火災で75%が破壊された。イングリッシュ・ネイチャーは、これは野生動物にとっての”破局”だ、すべてが失われれば回復は途方もなく困難だと言う。ナショナル・トラストは泥炭地の火災を非常に恐れている。これが燃えてしまえば、大量の炭素が失われ、気候変動問題を一層重大にすると言う。

 気象局は25日、ヒースや荒地の火災のリスクは今後数日間で例外的に高くなるだろうと一部国立公園に警告した。これは、多くの高地地域への立ち入りの権利の一時的停止に自動的につながるという。気象局は同時に、二酸化窒素による大気汚染の健康リスクにも警告した。既に猛暑に会っている高齢者や弱者が汚染された空気を吸い込むことで、リスクは一層高まると言う。

 さらに、環境庁は、大部分は封じ込められた東南イングランドの干ばつは今やブリテン島全体に広がったと警告、河川を保護するためにイースト・アングリアンの一部農民による作物灌漑を禁止した。地下水レベルの低下で、このままでは水道水の供給もままならなくなる。ミドランド、イーストアングリア、テームズ地域の帯水層のレベルは30℃以上の気温が数週間続いた1976年 と同じレベルにまで下がっている。

 Fire, drought and a dangerous rise in pollution: welcome to tinderbox UK,Guardian,7.26

 米国もこの2週間、ヨーロッパに勝るとも劣らない猛暑に襲われている。7月21日のBBC Newsは、38℃を超える猛暑で少なくとも10の州で死者が出ている、暑さが原因の死者は少なくとも22人に達したと報じた。

 Heatwave death toll rises in US,BBC,7.21

 先週末、ロサンゼルス近くで48℃が記録され、冷房のための電力需要がカリフォルニア州の発電能力を超える記録的高さに達した。そのために70万世帯で停電が起きた。ニューヨークでも先週末、10万世帯で停電が起きた。クイーンズの住民の4分の1に当たる6000の住民は、9日以来今でも電気なしの生活を強いられている。46℃を記録したミズーリでは、2回の例外的雷雨の後、数千世帯 (推定8万3000人)が電気なしのままになっている。 

 As Heat Soars in California, Power Supply Is Strained,The New York Times,7.25
  L'Europe et les Etats-Unis également touchés,Le Monde,7.25
  New Yorkers swelter through sixth day without electricity,Guardian,7.24
 Thousands Without Power in Missouri,The New Y,ork Times,7.26

  殺人的暑さを一時的に凌ぐための電気さえ来ない。猛暑の犠牲となる人の大部分は、ホームレスや貧しい人々だったが、これからはそうもいかない。電気がなければ医療機関も機能不全となる。どうやってこの夏、これからの夏を乗り切れというのだろうか。我々は温暖化抑制の有効な手段を持たないだけではなく、その影響、それがもたらす災害からの救済手段ももたない。

 問題は暑さだけではない。ますます頻度と強度を増す台風・ハリケーン・豪雨に対する備えもほとんどできていない。甚大な被害を受けた人々を救う手段さえもたない。

 あのカトリーナでニューオーリンズから数百マイルも離れた他州の都市に避難した数千ー当局はその正確な数さえつかんでいないーもの高齢者の大部分が帰ることを望んでいる。しかし、国は住宅援助に冷淡で、帰っても住む家が見つからない。アパートが見つかっても家賃が高すぎて払えない。老人センターに入ったらと言われるが、肝心のセンターは建設中で、誰に聞いても何時できるか分からない。最も救いの手を必要とする人々が見放されている。ハリケーンで移住すれば事態はもっと悪くなるだけだ。低賃金の高齢者は事実上社会に存在しないも同然になるという。

 Among Elderly Evacuees, a Strong Desire to Return Home, but Nowhere to Go,The New York Times,7.24

 政府(米国政府だけではない)も社会も、今取り組むべき最優先の課題は何か、それは経済成長なのか、熟考すべきときである。

  なお、今年の欧州の熱波は、温暖化した世界での原発利用の限界をますますはっきりさせたことで画期的な意味を持つ。温暖化とともに使えなくなるのでは、原発促進で温暖化を抑制すべきだという主張には意味がない(参照:フランス 猛暑と干ばつで原発操業停止の恐れ 温暖化が原発利用能力を減らす,05.7.12)。