フィリピン 記録的な台風大災害 日本にとっても”対岸の火事”視はできない

農業情報研究所(WAPIC)

06.12.3

 台風シーズンも終わりに近づいているというのに、記録的に強烈な台風でフィリピンが大災害に見舞われている。

 最大の被害を受けたのはルソン島南部アルバイ州の火山・マヨン山の麓の村々で、大雨が引き起こした岩石や火山灰を含む大規模な泥流が8つの村の家々を押し流した。マヨン山周辺の30日の雨量は466ミリに達し、このあたりの12月1ヵ月分の平均雨量(500ミリ)に匹敵する。40年ぶりの豪雨で、1875年には、やはりマヨン山の泥流で1500人が死んだ記録があるが、死者の数もそれに匹敵することになるかもしれない。

 被害の全容が明らかになるまでにはしばらくかかるだろうが、赤十字の最新発表によると、今までに全国で800人の死者・行方不明者が確認されている。

 800 dead or missing in Mayon mudslides--Red CrossI,NQ7.net,12.3

 近年、年間を通しての降水量には大きな変化はないもののの、とてつもない強度の台風・ハリケーン・サイクロンが増えつつあり、短時間で大量の雨が降る頻度も増えている。これは気候変動が極端な気象現象の頻度を増すという気候科学の予測とも一致する。過去10年、大雨とそれが引き起こす大規模な洪水・土砂崩れで、世界中で大量の人命が失われてきた。大規模なエルニーニョの年であった1998年には、中国で3600人、ニカラグアで2200人、パキスタンで1500人の死者が出ているが、フィリピンでは今年2月にも山の大規模崩壊が起き、1000人ちかくがなお行方不明になっている。今回の人命被害もそれに匹敵することになるだろう。

 米国・ワシントンの人口問題専門家は、自然災害の危険は近年急増している。フィリピンでは、1971年から2000年まで、自然災害による死者は3万4000人だったが、1990年から2000年まででは3500万人を殺すか混乱させたという。台風常襲地帯のフィリピンは、今後もますます頻度を増すであろうこのような気象現象への緊急の対応ー被害軽減策ーを要請されている。しかし、繰り返される災害にもかかわらず、多くの人々は余りに貧しく、危険地域から立ち退かない。貧困の増大と気候変動が問題を着実に悪化させているという。

 Natural disasters’ impact worsened by poverty--analysts,INQ7,12.3

 ただ、これはフィリピンだけの問題ではない。とりわけ日本を含むモンスーン地帯に共通の問題だ。インドの科学者は最近、インド中央部のモンスーン・シーズンの平均降水量に大きな変化はないが、1951年から2000年までの間に極端な降水事象の頻度と強度が大きく増しいることを確認した。これには対流圏の温暖化が関係しているようだと気候変動との関連を示唆する。これは、「社会・経済・環境に重大な影響を与える地すべり、洪水、農作物災害」の今後の一層の増加を予想させるものだ。

 B. N. Goswami et al.,Increasing Trend of Extreme Rain Events Over India in a Warming Environment,Science(06.12.1), Vol. 314. no. 5804, pp. 1442 – 1445.
 http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/314/5804/1442?ijkey=Po3G3AStTEiU.&keytype=ref&siteid=sci

 これは日本についても既に予測されている(地球シミュレータによる最新の地球温暖化予測計算が完了−温暖化により日本の猛暑と豪雨は増加−)。