過去20年の気候変動、世界主要穀物生産に年50億ドル、4000万トンの損失

農業情報研究所(WAPIC)

07.2.29

 将来の気候変動(地球温暖化)の食料生産への影響に関する多くの研究があるが、一部地域では温暖化で単位面積あたり収量が増加する一方、別の地域では逆に減少するという予想が一般的で、全体としての食料生産にどんな影響が及ぶかについてはなお不透明にとどまっている。このような将来の気候変動の影響を予測し、また近年の技術進歩がもたらした収量増加を一層正確に評価することに役立てることを目的に、米国研究者が過去の気候変動の世界全体の食料生産への影響を測定する世界で初めての試みを行った*

 *David B Lobell et al,Global scale climate–crop yield relationships and the impacts of recent warming,Environmental Reseach Letters,2(2007),2007.3.16;Abstract

 研究者は、国連食糧農業機関(FAO)から得た1961-2002年の世界の6つ主要食料作物(小麦、米、トウモロコシ、大豆、大麦、ソルガム)の世界平均収量と、気候研究ユニット(CRU)から得たこの間の月ごとの気温と降水量に関するデータに基づきこの測定を行った。その結果、1980年から2002年までに世界の年平均気温は0.4℃上昇したが、この温暖化が主要穀物生産について1年あたりおよそ50億ドルの損失をもたらしたことがわかった。小麦・トウモロコシ・大麦を合せた世界全体の生産量は、人間活動に起因する気温上昇のために年あたり4000万トンの損失を蒙ったという。

 作物ごとの詳細な数字は次のとおりだ。 

  小麦 トウモロコシ 大豆 大麦 ソルガム
2002年栽培面積(100万ha) 214 148 139 79 55 42
2002年生産量(100万t) 574 578 602 181 137 54
1981-2002年収量変化(kg/ha) 846 1109 1178 632 473 -80
気候変動による収量変化(kg/ha) -88.2 -10.5 -90.3 23.1 -144.9 -19.5
気候変動による生産変化(100万t/年) -18.9 -1.6 -12.5 1.8 -8.0 -0.8

 この間の人間活動に起因する気候変動は、大豆を除くすべてのこれら作物の収量・生産に悪影響を与えてきたことが知られる。研究者は次のように結論する。

 ・温暖化の影響は二酸化炭素レベルの増加による”施肥効果”である程度までは覆されるという議論があるが、気温について使ったと同様な方法でこの効果の推定を試みたところでは、その収量への影響は測定不能なほどに小さい。二酸化炭素濃度の1ppmの増加が生み出す収量増加は0.1%まででしかなかった。この間、二酸化炭素濃度は35ppm増える一方、気候変動によって小麦収量は3%減少した。従って、この間、二酸化炭素と気候変動の影響は、この20年に関する限り大部分が相殺され、収量への純影響は極めて小さいものとなった。この結果は、二酸化炭素増加による施肥効果は、2℃までの気温上昇による収量損失を上回ることを示唆する既存のモデル評価に疑問を呈する。

 ・気温上昇の影響は栽培時期の変更や多様な品種の利用などの農業者による適応措置によっても覆される得る。この統計的研究ではそれはまったく考慮されておらず、このことが過去の気候変動の影響や将来の影響の推定に不確実性をもたらす要因となる。

 ・すべての作物収量モデルは規模に依存しており、地球規模の経験的・統計的モデルでは地域レベルでの応答の信頼できる予測は不可能である。例えば、気候変動は世界の収量を減少させたという結論は、一部地域では気候変動で収量が増加した可能性を排除するものでははない。また、これらのモデルにおいては、栽培地域が大きく移動する場合(例えば最近のブラジルにおける大豆栽培の拡大)には将来の収量の応答をシミュレートする能力が大きく制約される。

 ・それにもかかわらず、歴史的な気温-収量の関係は、世界規模では過去20年の温暖化が技術進歩、二酸化炭素濃度上昇、その他の非気候的要因による収量増加の効果を打ち消してしまった可能性が非常に高いことを示唆している。

 関連情報:気候変動と農業・食料生産