大気中CO2濃度 危険な気候変動を避けるための限度を既に超えている

農業情報研究所(WAPIC)

08.4.14

  現在、一般的には、”気候系に対する危険な人為的干渉”を回避するためには、二酸化炭素(CO2)の大気中濃度を550ppm以下に抑えねばならないとされている。そして、EUの気候変動対策(温室効果ガス削減)も、これを目標に定められている。

 ところが、1981年発表のサイエンス誌論文で今日の地球温暖化問題の火付け役となり、1988年に米議会上院で人間活動の温暖化への寄与は確実と証言して以来、気候変動論争で常に大きな役割を演じてきた米国航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙科学研究所(GISS)のジェイムス・ハンセン所長らの研究グループが、550ppmという上限値は余りに楽観的にすぎる、この値は既に1990年に超えてしまったおよそ350ppm(現在は385ppm)でなければならないと論じているという。

 ル・モンド紙によると、この研究は未公刊だが、4月7日にプレプリントサーバー・arXivに追加された。

 La Terre pourrait déjà avoir dépassé le seuil dangereux de CO2,Le Monde,4.10
 http://www.lemonde.fr/sciences-et-environnement/article/2008/04/10/la-terre-pourrait-deja-avoir-depasse-le-seuil-dangereux-de-co2_1033064_3244.html#ens_id=853716

 これら研究者によると、350ppmを超えたからといって、直ちに危険というわけではない。これを超える状態が長期にわたって続くと、「危険で、後戻りできない気候不順につながる軌道に乗るリスクがある」ということである。そして、350ppmのレベルに戻ることは可能だ、そのためには、「石炭発電所を止め、次いで、今から2020-2030年までに、石炭の使用を全廃する必要がある。炭素を閉じ込められるように、農業と林業のあり方を見直す必要もある」という。

 この結論に到達するために、研究者は過去5000万年にわたる地球の気候大変動の跡を辿る一連のデータを分析した。350ppmという限界を決定するために、等温線の移動の速度、氷河(水の涵養に重要)の後退、海面上昇の速度、氷冠の不安定化、サンゴ礁の反応を検討した。

 また、炭酸ガスに対する”気候のセンシビリティ”の計算もやり直した。このセンシビリティとは、産業革命以前のCO2濃度(270-280ppm)が2倍になることで起きる平均的気温上昇を意味する。気候変動政府間パネル(IPCC)が使ったモデルでは、これは3℃前後である。しかし、この計算では、気候学者が”遅効的な遡及効果”(rétroactions lentes)と呼ぶものが考慮されていない。

 たとえば、氷冠の減少の問題。温室効果が増すと気温が上昇し、氷冠が減少する。そうすると、地球は太陽光反射能力の一部を失い、光のエネルギーの吸収が増える。従って、気温上昇が一層速まり、氷冠の減少が加速する・・・。

 このようなタイプの遡及効果を考慮してIPCCが使ったモデルで推定すると、気候のセンシビリティは6℃になる。ただし、このような遡及効果が作用するにはどれほどの時間が必要なのか、この”悪循環”が定着するのは今世紀末なのか、それとも来世紀末なのか、これを知る問題が未だ残っている。

 重要なことはモデルの不確実性だ。ドイツの研究グループが発表した最近の堆積物分析は、南極の大きな氷冠(現在の氷冠のおよそ60%と推定される)は、熱帯太洋の温度が現在よりも10℃も高かった白亜紀にも、短期間とはいえ、残ったことを示しているという。