EU 土壌と気候変動の関係でハイレベル会合 土壌有機物減少に危機感

農業情報研究所(WAPIC)

08.6.13

 EUが今日、土壌と気候変動の関係に関する欧州委員会主催のハイレベル会合を開く。欧州委員会は2006年9月、土壌保護のための枠組みを策定する指令案(1)を提案した。それはEU各国に対し、浸食・固化・塩化・地すべりのリスクに加え、有機物減少のリスクが存在する地域を確定し、これら地域のリスク削減目標の設定とそれを達成するための計画の策定を要求していた。

 欧州委員会によれば、土壌が含む有機物は土壌の肥沃度(地力)を支え、保水力を高め、生物多様性を支え、地球の炭素循環を制御するという重要な役割を演じている。ところが、EU諸国の多くの土壌が含む有機物のレベルは、土地管理方法の長期にわたる変化、土壌管理技術の変化、降水パターンの変化、気温上昇などの様々な理由で、危機的なまでに低下している。

 ヨーロッパの土壌の45%は有機物含有量が非常に少なく(有機炭素が0-2%)、他の45%も中位のレベル(同2-6%)にある。南欧では砂漠化寸前と言えるほどに有機物レベルは低いが、有機物レベルの低下はフランス、イギリス、ドイツ、オランダ、スウェーデンの一部でも問題になる(2)

 これは、有機物の分解(土壌中炭素の酸素との結合)によって、土壌が大量の二酸化炭素排出源となっていることを意味する。EUの土壌は700億トン以上の有機炭素を含み、その僅かな部分の放出も他部門での放出削減分を帳消しにしてしまう。たとえば、イギリスの土壌は、過去25年、毎年1300万トンの炭素を失ってきたという。

 気候変動抑制の観点からして、土壌有機物の減少を防ぎ、回復を図ることは極めて重要になる。だからこその指令案であった。

 ところが、この指令案は、昨年12月の環境相理事会で承認を阻まれた。27ヵ国中の22ヵ国までが賛成したが、フランス、ドイツ、イギリス、オランダ、オーストリアが反対、承認に必要な票数が得られなかったからである。反対の理由は、土壌保護は各国の権限に属し、EUレベルで交渉すべきことではない、指令のコストが高過ぎる、実施のための負担が重過ぎるなどであった(3)

 しかし、欧州委員会は、なおこの提案を取り下げていない。このハイレベル会合は、EUレベルでの行動の重要性を改めて強調するものとなる。ディマス環境担当委員は、「我々の土壌は700万トンもの炭素を貯えており、その僅かな喪失も温室効果ガス排出に巨大な影響を与える。従って、ヨーロッパ全体の持続可能性のために土壌の重要性を認めるように閣僚理事会に要請する。また、この最も貴重な資源をヨーロッパの立法を通して保護する必要性を認めるように要請する」と言う。

 (1)http://ec.europa.eu/environment/soil/pdf/com_2006_0232_en.pdf
 (2)Questions and answers on the Thematic Strategy on soil protection
 (3)Environment: Commission welcomes Council agreement on aviation, regrets failure on soil 


 ところで、わが国は、土壌有機物となるべきもの、大気から吸収した炭素を含む植物体を、食べる部分は除いて全部バイオ燃料にして燃やす計画を持つ。わが国でも緊急ハイレベル会合が必要だ。洞爺湖サミット前に。