EU 農業集約化で大地が温室効果ガスの純排出源に 土地管理の改善を ヨーロッパの新研究

農業情報研究所(WAPIC)

09.11.25

 マックス・プランク研究所のDetlef Schulze率いるヨーロッパ17ヵ国の研究者によるヨーロッパの温室効果ガス(GHG)収支に関する初めての包括的研究が、欧州連合(EU)における農業由来のGHG排出は植生(森林、草地)によるGHG吸収能力を超えることを明らかにした。

 この新たな研究によると、2000年から2005年の間、ヨーロッパの森林・草地は年に3億500万トンの炭素を吸収した。この規模のカーボンシンクは、化石燃料燃焼によって排出される炭素の19%を相殺する。

 しかし、農地と排水泥炭地から排出されるCO2を差し引くと、ヨーロッパ大陸の純CO2シンクは2億7200万トン、化石燃料燃焼による排出の15%に減少する。

 ところが、収支計算はこれで終わらない。ヨーロッパのすべての生態系は管理されており、この管理の副産物として別の強力なGHGが放出される。草地や農地に施用される肥料から出る窒素酸化物や家畜や泥炭地が排出するメタンなどである。

 以前は無視されていたこれらの排出を計算に入れると、カーボンシンクはほとんど底をつき、家庭・輸送・工業から排出されるCO2の僅か2%を相殺するにすぎない。すなわち、ヨーロッパの陸地は、カーボンシンクとしてほとんど何の役目も果たしていないということである。

 EUに限定して同様に計算すると、メタンや窒素酸化物の排出がより多いために、その地表はシンクどころか、年に3400万トン(炭素換算)のGHG純排出源となっている。つまり、本来は化石燃料燃焼によって大気中に排出されるGHGを吸収し、気候変動(地球温暖化)を抑制するはずの大地が、かえって気候変動を(3%だけ)促進しているということである。

 研究は、一層集約的な農業に向かう趨勢と森林伐採がヨーロッパの地表を重要なGHG排出源にしている、GHG排出を減らすことを目指す土地管理政策の開発が優先されるべきだと勧告する。

 E. D. Schulze et al.,Importance of methane and nitrous oxide for Europe's terrestrial greenhouse-gas balance,Nature Geoscience,22 November 2009
  Abstract:http://www.nature.com/ngeo/journal/vaop/ncurrent/pdf/ngeo686.pdf

  わが国では、堆肥や緑肥などの施用によって農地土壌への炭素貯留を増やすことを目指す農林水産省モデル事業が、11月24日の行政刷新会議で、この問題に特定した議論や説明は一切なく(この仕分け人の顔ぶれでは、その能力もなかろうが)、バッサリ切り捨てられた[ 税金の使いみちを決める過程が分かると評価の高い事業仕分けだが、逆に、何の説明もなく、あるいはわけの分からぬ理由で事業が切られていく]。農業における温暖化防止策の目玉が消えた。現政権、地球温暖化防止にまじめに取り組む気があるのだろうか。言うこととやることが違いすぎる。