「我々は気候を変えるには及ばない、貿易を変える必要がある」 COP15の傍らで

農業情報研究所(WAPIC)

09.12.10

 コペンハーゲンの気候変動会議(COP)15)と並行して開かれている市民社会の会合で、ラテンアメリカから来た女性活動家が、「我々は気候を変えるには及ばない、貿易を変える必要がある」と叫んだ。 グアテマラからやってきた国際ジェンダー・貿易ネットワーク(IGTN)の二人の女性活動家は、ラテンアメリカ諸国が米国やEUと結んだ自由貿易協定を批判した。

 彼女らが言うには、自由貿易協定は、大量の水を使い、汚染を撒き散らす天然資源採掘のメガプロジェクトの結果として、貧困を助長し、生物多様性を奪い、気候変動の影響を増幅している。

 鉱山プロジェクト、大規模な水力発電ダムの建設、モノカルチャー作物や遺伝子組み換え(GM)作物のプランテーションなどがその例だ。自由貿易協定には特許GM種子に関する厳格な知的財産権規則も含まれ、これが小農民を傷つけ、地球温暖化のための収量変動の被害を既に蒙っている貧しいコミュニティの食料不安を生み出している。

 「貿易協定は、我々の天然資源の外国による分捕りを合法化する」。「グアテマラは多くの食料作物の原産地でありながら、人々は栄養不足に悩んでいる。子供は腹を空かして死んでいる。食料は生産できても、そのすべてが輸出向け、大きな国際市場に売られる」。EUは片手で開発援助を与え、貿易協定により、「もう一方の手で取り上げる」。

 グアテマラの女性たちは、温室効果ガスなど知らない。彼女ら自身も良く分からない。分かっているのは、女性たちは泳ぐこともできないのに、地すべりや洪水が頻繁に起きるということだ。天気は暑くなるばかりで、以前は10月だったコーヒーの熟期が1月になるなど、作物の生育リズムが変わり、水不足が常態化している。「我々はカーボンシンクが何かは知らないが、我々の土地が取り上げられつつあるのは知っている」。

 COP15には「何も期待していない」ということだ。

 CLIMATE CHANGE: Latin American Women Want Modified Trade Rules,IPS,12.9
 http://www.ipsnews.net/news.asp?idnews=49611

 EUやアメリカだけではない。多くの途上国で、日本も同じようなことをしてきた。食料や”エコ”と称する様々な製品(部品)も、このようにして日本と世界の市場にもたらされる。それは、途上国における環境破壊や生物多様性の喪失だけでなく、温室効果ガス排出の増加にも結びついている。

 先進国による現地生産・現地調達の拡大や自動車等製品市場の拡大が途上国の温室効果ガス排出の増加を加速していることは間違いない。それでも、途上国が削減を約束しないから、あるいはしなければ、自分も約束しないと言い張る。他方で、日本が削減を義務づけたら競争力が落ちるから、わが社は規制のない国に生産拠点を移すなどと脅しかける企業団体もある。

 自分もCOP15には何も期待していない。問題は温室効果ガス排出の削減ではない。自然、生態系との共生関係をいかに護るかということだ(グアテマラの女性が取り上げられつつあると知っている「土地」とは、自然、生態系のことだろう)。排出減少はその結果にすぎない。CO2削減の自己目的化は、既に熱帯雨林と先住民の”共生”関係を破壊しつつある。世界中に拡散した原発が生み出す核廃棄物は、地球を大量の放射能と”共生”できる怪物たちが支配する星に変えてしまうかもしれない。