欧州環境庁、「技術はすべての環境問題を解決しない」 ミレニアム・エコシステム・アセスメントを受けて

農業情報研究所(WAPIC)

05.4.14

 欧州環境庁(EEA)が12日、「技術はすべての環境問題を解決できない」という声明を発した(http://org.eea.eu.int/news/Ann1113292390/index_html)。先月30日に発表され、95ヵ国、1400人の専門家が4年間にわたりかかわった「ミレニアム・エコシステム・アセスメント(MA)」の結果(⇒Millennium Ecosystem Assessment Synthesis Report)を受けての声明だ。EEAの常務理事であり、このアセスメント報告に貢献したジャックリーン・マックグレードは、この報告は我々の多くのエコシステムの現在の持続不能な方向に関する非常に強力なコンセンサスであり、「環境懐疑論者がしばしば言うこととは反対に、この報告は、技術だけがすべての問題を解決するのではないことを決定的に確認する。最善のシナリオでさえ、取り返しのつかない結果が予想され、それは深刻な地方的・世界的影響を持つ」と言う。彼女は、将来は我々の手の中にあると指摘、「我々の孫のために一層均衡の取れた地球を創造することは可能だ。我々は、強力な政治的約束、環境に対する知識の改善、環境に優しい技術、そして自然資源利用のための一層高い価格を結合することが必要だ」と述べる。

 燃料電池開発を掲げて自動車が排気ガスを撒き散らすに任せ、クリーンな石炭燃焼発電の開発にかけて発電所がもくもくと煤煙を吹き上げるに任せて、エネルギー消費を減らそうともせず、温暖化ガス削減政策を一蹴する米ブッシュ政権に強力なパンチを見舞ったと受け止めることができる。

 MAを遂行した科学者たちは、それが、科学研究が初めて政治を動かし、京都議定書の発効にまで漕ぎ付けた気候変動政府間パネルの報告と同様な役割を演じることを望んでいる。この研究は、エコシステムの変化に関しては新たな知見を付け加えるというよりも、既存の研究を集大成したにすぎない。しかし、それをエコシステムが提供する地球上の生命へのサービス(恩恵、贈物)の変化と結び付け、このサービスの減退傾向を、人間の福祉を後退させることなく覆す方法を探求、そのためには政策と制度の根本的改変が必要としたことで、画期的な意義をもつ。

 この浩瀚な報告の内容を報道発表(http://www.maweb.org/en/Article.aspx?id=58)などで要約すると次のようなものだ。

 この研究は、地球上の生命を支えるエコシステムのサービス―淡水、捕獲漁獲、大気と水の調整、地域気候・自然の危害・流行病の調整など―のおよそ60%が減退しつつあり、あるいは持続不能な仕方で利用されていることを明らかにし、この減退は、来るべき50年にますます大きくなると警告する。それは、「貧困と飢餓の根絶、健康の改善、環境保護の目標に向けて達成されたいかなる進歩も、人間が依存する大部分のエコシステムのサービスが減退を続けるならば、持続しそうもない」、とりわけ、進行中のエコシステムのサービスの減退は、2000年に国連で世界の指導者たちが合意したミレニアム開発目標の防塞になると言う。

 証拠は未完ではあるが、検討された24のエコシステムのサービスのうち、15のサービスの進行中の減退は、専門家が人間の福祉に深刻な影響を与える突然の変化の確率を増加させていると警告するには十分である。これには、新たな病気の出現、水質の突然の変化、沿岸沿いの「デッド・ゾーン」の発生、捕獲漁業の崩壊、地域気候の変動が含まれる。

 報告が際立たせるのは、次の4つの主要な発見である。

・人間は、過去50年に、他のいかなる時代よりも急速に、極度にエコシステムを変化させた。これは、大部分は食糧・淡水・木材・繊維・燃料への増加する需要を満たすために起きた。1945年以来、18世紀と19世紀を合わせた以上の土地が農業用に転換された。1913年に初めて作られた合成窒素肥料全体の半分以上が1985年以後に使われた。これは、地球上の生物多様性の大きな、大部分は不可逆的な損失に結果した。現在、哺乳動物、小鳥、両生類の10%から20%が絶滅の脅威に曝されている。

・人間の福祉と経済発展において大きな純利得をもたらしたエコシステムの変化は、他のサービスの減退の形でのコストの増大によって達成された。過去50年に強化されたエコシステムのサービスは、作物・家畜・水産養殖生産の増加と気候変動調整のための炭素隔離の増加の4つだけである。捕獲漁業と淡水の二つのサービスは、現在の需要を、まして将来の需要を持続させることのできるレベルを大きく超えている。これらの問題は将来の世代の便益を大きく減らすことになる。

・エコシステムのサービスの減退は今世紀前半に大きく進み、国連のミレニアム開発目標の達成の障害になる。科学者が研究した4つのすべての信頼できるシナリオにおいて、飢餓根絶への進歩が予測されるが、2015年までに飢餓人口を半減させるために必要な速度よりもはるかに遅い速度においてである。森林破壊などエコシステムの変化は、マラリアやコレラのような人間の病原体の増殖ばかりか、新たな病気の出現のリスクに影響する。例えばマラリアは、アフリカの病気負担の11%を占めるが、35年前に根絶されていれば、アフリカ大陸の国内総生産は1000億ドル増えていただろう。

・増加する需要を満たしながらエコシステムの退化を覆す挑戦は、政策と制度の大きな変化が関係するいくつかのシナリオの下で可能である。しかし、このような変化は、現在進んでいない。報告は、否定的代償を減らすか、他のサービスへのプラスの影響を与えるエコシステムのサービスの保全または強化のための存在する選択肢を述べる。例えば、天然林の保護は野生動物の保護するだけでなく、淡水を供給し、炭素排出を減らす。

 MAの理事会は、「このアセスメントの最も重要な結論は、我々が地球の自然のサービスにかける重圧を和らげ、それをすべてにより良い生活水準をもたらすように利用する力は人間社会の内部にある」、「しかし、これを達成するためには、自然を扱う方法における政策形成のあらゆるレベルでの変化と、政府・企業・市民社会の間の新たな協力方法が必要である」と言う。

 気候変動への対応と同様、この問題でもEUが世界を主導するしかないのだろうか。