石油価格高騰でパームオイル・ブーム 森林・野生動物・原住民・環境に破滅的影響の恐れ

農業情報研究所(WAPIC)

05.10.13

 石油価格の高騰がパームオイル(椰子油)に対する代替需要を引き起こし、その生産拡大の流れを加速している。

 マレーシアとインドネシアで世界生産の80%が生産されるパームオイルは、マーガリン、ショートニング、焼成食品、キャンディーなどの食品に世界中で使われている。しかし、飽和脂肪酸の含有量が多く、多価不飽和脂肪酸が少ないために心臓病発生を促すと心配され、世界保健機関(WHO)などもその消費を減らすように要請してきた。それにもかかわらず、その生産と消費が減少する兆しはない(下図、FAO資料による)。

 

 

 

 パームオイルには食品としてのこのような問題があるだけではない。その原料は森林を焼き払うなどして造成される大規模プランテーションによって生産されるために、その生産拡大は大規模な森林破壊につながってきた。それは、オランウータンを絶滅の危機に追いやるだけでなく、プランテーション拡張が続くインドネシアで毎年発生し、マレーシアを始めとする東南アジア諸国を煙霧で覆って深刻な健康被害をもたらしている大規模な森林火災の一因ともなっている。それは地球温暖化を加速するとも指摘されている(健康上の問題を含めたこれらの問題については、米国公益科学センター(CSPI)の最近のレポート”Cruel Oil: How Palm Oil Harms Health, Rainforest, & Wildlife”を参照されたい)。

 ところが、石油価格高騰がこのようなパームオイル生産に一層の拍車をかけようとしている。

 フィナンシャル・タイムズは最近、マレーシア政府は近々、高い費用がかかる燃料補助金を削減し、国のパームオイル産業を促進するために、車や機械のためのジーゼル燃料のバイオ燃料への転換を義務づけるアジア最初の国になるかもしれないと報じた。この計画が承認されれば、ジーゼル燃料95%とパームオイル5%の混合燃料が2007年から販売されることになる(Malaysia likely to legislate biofuel use,Financial Times,05.10.8,p.1)。

 それだけではない。政府は、来年中には輸出用バイオ燃料18万トンを生産する三つの工場の建設を計画している。工場は、マレーシア・パームオイル・ボードといくつかの国内パームオイル・プランテーション企業のジョイントベンッチャーにより運営されることになるという。

 マレーシア政府のパームオイル促進委員会(MPOPC)は、CSPIの報告の有害影響を全面的に否定するとともに(http://www.mpopc.org.my/respond_to_CSPI.asp)、原油価格高騰のためにEUと米国のバイオ燃料としてのパームオイル需要が増加、マレーシアのパームオイルの将来はますます明るくなると発表した(Palm oil may correct lower)。

 パームオイル生産促進要因は、バイオ燃料需要増大だけでもない。同じくフィナンシャル・タイムズの報道によると、世界最大の消費財販売会社の一つであるプロクター & ギャンブル社(P&G)は、原油価格上昇を受け、大部分の洗剤の不可欠な成分である界面活性剤製造の原料を石油からパームオイルやココナッツ油に切り換えることを計画している。そのために、インドネシア、マレーシア、フィリピンの椰子プランテーンに巨額の投資をしている。会社の財務担当者は、「世界には椰子が生えているか、椰子生産の潜在力をもつ広大な土地がある。椰子は最低限の努力で非常に立派に育つ」と言っている。会社の界面活性剤の20%までをこれらの油から生産するという目標を3年から5年で実現するという(Palm trees shade P & G from oil crisis,Financial Times,05.10.5,p.22)。

 インドネシアでも、中国が資金を提供、インドネシア政府が支援する世界最大級のパームオイル・プランテーション建設の計画がある。マレーシアとの国境山岳地帯、ボルネオの440万エーカー(180万ha、オランダの面積に相当)をカバーするこの計画は、森林・野生動物・原住民に破滅的影響を与える恐れがあるという(WWF;Heart of Borneo at risk from massive palm oil plantation,05.8.13)。

 石油の利用を減らすことは地球に優しいと言われる。とりわけ、化石燃料のバイオ燃料への切り換えは地球温暖化抑制の決め手の一つのように言われている。しかし、このような代替燃料の野放図な拡大は、その利点のすべてを帳消しにするばかりが、一層有害でさえある恐れがある。食品も含め、パームオイルを利用した製品の利用には、消費者も常に慎重でなくてはならないだろう。