農業生産拡大が魚を殺す 海洋デッドゾーンが世界中で急増

農業情報研究所(WAPIC)

08.8.15

  米国海洋科学、海洋生態系研究者が、1960年代以来世界中の沿岸水域の酸欠”デッドゾーン”の数が10年ごとに倍増、生態系に働きに重大な影響を及ぼしていることを明らかにした*

 *Robert J. Diaz1 and Rutger Rosenberg,Spreading Dead Zones and Consequences for Marine Ecosystems,Science 15 August 2008,Vol. 321. no. 5891, pp. 926 - 929
 Abstract:http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/321/5891/926

 水域の酸欠現象は、今までにもチェサピーク湾、エリー湖、メキシコ湾、ロングアイランド水道などで見られたが、研究者は科学文献や政府報告を徹底的に調査、多くの新たなデッドゾーンを確認した。

 このデッドゾーンの拡散は、農業の拡大による肥料成分の水系流出の増大や化石燃料燃焼による大気汚染が煽り立てる世界中の沿岸水域の富栄養化の帰結である。一次生産の強化が粒子状有機物質の蓄積に帰結し、それが海底水中の微生物の活動と溶け込んだ酸素の消費を促す。

 現在、バルチック海やメキシコ湾の大規模なものから、散発的に河口に現れる小規模なものまで、世界で400以上のデッドゾーンが報告され、全体で24万5000㎢に影響を与えている。

 このようなデッドゾーンの広がりは、漁業資源(従って食料資源)として重要な魚や蟹や、食物連鎖の基底を構成する大量の海洋生物を殺している。デッドゾーンの面積は海洋総面積に比べれば微々たるものだが、漁業を支える海洋水域の重要部分を占める。

 メキシコ湾、チェサピーク湾、バルチック海の海底デッドゾーンからは魚や甲殻類動物が消え、微生物以外の生命はほとんど残っていない。チェサピーク湾の酸素欠乏で失われるバイオマスは、販売目的で漁獲される蟹の半分を養うに十分だ。最近は中国沿岸やカテガット海(ノルウェー)にもデッドゾーンが広がり、ノルウェーのエビ漁業は崩壊した。


 食料(とバイオ燃料)増産のための農業生産拡大が、もう一つの重要食料資源である海洋生物を殺している。地球は、これ以上の食料増産を支えられなくなっている。