ブッシュ政府 絶滅危惧種保護法を骨抜き オバマ大統領就任前 環境法改悪ラッシュ

農業情報研究所(WAPIC)

08.12.13

  12月11日、米国内務省が、開発に先立ち独立生物学者の意見を聴くことを連邦機関に義務付ける「絶滅危機種保護法」の核心部分を骨抜きにする最終ルールを発表した。

 Final Rule: Interagency Cooperation under ESA
  http://www.doi.gov/initiatives/ESA_Section7FR.pdf
  Secretary Kempthorne's Statement
  http://www.doi.gov/secretary/speeches/121108_speech.html

 ダム建設にかかわる陸軍工兵隊、高速道路建設にかかわる連邦道路庁をはじめとする連邦諸機関は、ダムや高速道路を建設する前に、あるいは送電塔設置、宅地開発、その他絶滅危惧種保護法の下で保護される動植物を害する恐れのあるプロジェクトを許可する前に、独立生物学者に野生動植物への影響を諮ることを義務付けられてきた。ところが、新ルールは、このような義務の大部分を解除する。多くの場合、野生動植物への影響は各機関の独自の判断に委ねられることになる。

 なぜこのようなルール変更なのか。ダーク・ケンプソーン内務長官によると、絶滅危惧種保護法が温室効果ガス排出を規制する”裏口”の手段として利用されないように保証するのが主な目的という。

 この新たなルールがなければ、温暖化による海氷の減少で脅かされている北極熊を保護種のリストに加えた彼の今年夏の決定が、北極熊の生息地からはるかに離れた場所のプロジェクトを妨げる恐れがある。例えば、ミズーリでの石炭発電所の建設の許可も、発電所からの排出が間接的に熊の生息地の縮小につながるという理屈で、阻止される恐れがある、というわけである。

 常人には”屁理屈”としか思えない。独立生物学者への諮問の義務付けは、絶滅危惧種を絶滅から防ぐことを目的とする法律の核心である。法律の基本的精神からすれば、絶滅危惧種の保護は開発に優先する。諮問義務付けのルールはこの精神を体現するものだ。ところが、開発が邪魔される、しかも”間接的”に邪魔される恐れがあるからこのルールを廃止するというのでは、法律そのものを否定するに等しい。

 これは、経済が環境(保護)の犠牲になってはならないというブッシュ政府の基本精神の実現を正当化するための”屁理屈”にほかならない。実のところ、ブッシュ政府は、オバマ氏が大統領になる前に、経済を環境の犠牲にするあらゆるルールを書き換えてしまおうと躍起になっている。

 絶滅危惧種保護のためのルールの書き換えは、労働者を職場で曝される有毒物質・有害化学物質(アスベスト、ベンゼン、ホルムアルデヒド、鉛・・・・・・エイズウィルス)から保護することを著しく難しくする労働省の新ルール(産業別の暴露の証拠に基づくリスク評価の導入)、国立公園近くでの石炭発電所やその他の工場の建設を容易にするための環境保護庁による大気汚染防止ルールの書き換え(これは最近断念したらしい)などと並ぶ、そうした駆け込みルール変更の一環をなすにすぎない。

 オバマ大統領就任前に書き換えてしまえば、これを元に戻すには大変な手間と時間がかかる。環境や労働安全などで米国経済が邪魔されることは当分なくなるというわけだ。

 今回の内務省の新ルール、30日以内に発効する。オバマ政府の選択肢は、ルール差し止めか、訴訟しかないという。ブッシュ大統領、環境問題への取り組みでも歴代最悪の大統領として歴史に名を残すことになる。

 関連ニュース
 Administration Loosens Species Protections,The Washington Post,12.12
 http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/12/11/AR2008121103392.html?
 Rule Eases a Mandate Under a Law on Wildlife,The New York Times,12.12
 http://www.nytimes.com/2008/12/12/science/earth/12species.html?ref=us
  Bush Aides Rush to Enact a Safety Rule Obama Opposes,The New York Times,11.30
 http://www.nytimes.com/2008/11/30/washington/30labor.html?ref=us

 EPA Abruptly Backs Away From Proposals to Alter Air-Pollution Rules,The Washington Post,12.11
 http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/12/10/AR2008121003225.html?wpisrc=newsletter