ブラジル、バイオジーゼル利用が始動 小農民支援も狙い

農業情報研究所(WAPIC)

04.11.19

 ブラジルは今月、植物油と通常のジーゼル燃料を混合したバイオジーゼルの利用を始める。この燃料はひまし油用植物、大豆、ヒマワリ種子などの作物に由来する油で構成される。ブラジルのバイオジーゼル計画は、更新可能な燃料源の生産を刺激する一方で、これら作物の生産に土地改革で定住する小農民を参加させることで、貧困削減という社会的目標にも寄与することを狙っている。農地開発省(MDA)がこれら生産者に資金を提供する。来るべき2年間に、これらの3万8000の農民と契約する計画だ。バンク・オブ・ノースイースト、バンク・オブ・ブラジル等の金融機関を動員、農民の作物の購入の保証に協力を求める。

 バイオジーゼルは、一般的には通常のジーゼルより温室効果ガスの排出が少ないとされ、気候変動対策にもなるという点で環境上の利点がある。同時に、ブラジルにとっての経済的利益も見込んでいるようだ。ブラジルはガソリン、ナフサ、灯油を十分に自給できているが、トラック、バスの燃料としてのジーゼルは、一部を輸入に依存している。02年の調査では、ブラジルで利用される輸送燃料はガソリンが25.6%、70年代から利用が始まったシュガーケーンからのエタノール燃料が11.9%を占めるのに対し、ジーゼルは52.4%と過半を占める。このために、必要なジーゼルの15%に相当する年々60億リットルを輸入、そのコストは12億ドルになる。しかし、植物油を2%混合することで、年に8億リットルが節約できる。ブラジル国営のペトロブラ社はひまし油を利用して安価で効率的にバイオジーゼルを生産する技術を開発済みで、国全体に容易に広げることができるし、大豆、ひまわりからの生産も可能という。バイオジーゼル利用のために既存のエンジンを大きく改良する必要もない。

 環境配慮からバイオ燃料利用を推進するEUでは、既にフランス、ドイツ、イタリアなどがバイオジーゼルを生産、02年の生産量は100万トンを超えている。ブラジルがこの後を追うことになる(アルコール燃料を含めてバイオ燃料全体では、EUがブラジルを追う立場にあるが)。このように、この計画は環境・経済・社会面で大きな利点があるように見える。

 しかし、土地無し農村労働者運動(MST)は懐疑的である。計画が小農民や土地を配分された定住者に本当に役立つのかどうか、巨大アグリビジネスだけを利することになるのではないかと疑っている。アルコール燃料推進計画は、結局は大規模土地所有者をますます強めるだけに終わり、今日の奴隷に近い労働を利用する大資本の支配と巨大な環境破壊の一因となった。左翼政府のコントロールの能力が問われる。

 ニュース・ソース
 Brazil creates a cleaner fuel produced by small farmers,Portal da cidadania,11.17
 Brazil, Argentina pump up biodiesel,soyatech.com,11.15

 (関連情報)フィリピンとタイ、エタノール燃料基準開発で合意(Philippines, Thailand agree to develop ethanol fuel standards,soyatech.com,11,18)

 フィリピンとタイがエタノールの地域燃料基準を開発することで合意した。フィリピンは現在、砂糖を輸出しており、売れば損失となる過剰生産は23万トンにのぼる。これは副産物としてのエタノールの生産に利用できる。タイは現在、ガソリンに5-10%のエタノールを混ぜて利用しているが、両国企業がエタノールの流通と貯蔵の基準の開発で共同、タイ企業がエタノール・ブレンドガソリンで走行する車の試験で技術協力する。

 過剰農産物を利用したエタノール生産は米国やオーストラリアでも推進されているし、EUも燃料作物栽培を補助している。英国は、政府と産業が更新可能なエネルギーの目標と持続可能な農業・林業・農村という目的のために、燃料用作物奨励に本格的に乗り出した(英国、バイオエネルギー政策で一歩前進、タスクフォースとインフラ計画立ち上げ,04.10.18)。農産物の燃料利用の増進は世界的潮流となっている。