FAO専門家会合 バイオ燃料生産は多種作物混在地での小農民生産が最善

農業情報研究所(WAPIC)

07.4.24

 国連食糧農業機関(FAO)が今月16日から3日間、バイオエネルギーに関する国際トップ専門家の会合を開き、その可能性(ポテンシャル)とバイオエネルギー産業の急速な拡大の食糧安全保障や環境への影響を評価した。

 この会合開催を告げる報道発表は、会合開催の背景を、@現在はサトウキビ、パームオイル、トウモロコシなどを原料として作られているバイオ燃料は、化石代替エネルギーとして温室効果ガス排出削減と農村地域における新たな職とインフラストラクチャーの創出を約束するけれども、A他方では大規模なモノカルチャーのための土地開拓で環境損傷と生物多様性喪失を引き起こすという批判もあり、Bさらに車の燃料を作るために食料作物を人間と家畜から取り上げることをめぐる懸念の声も高まっている、と説明していた。

 そして、会合を終えるに当たっては(つまり18日には)、ワンセットの勧告が出されると予想されるとしていた。

 Top experts to weigh impact of bioenergy,FAO,07.4.16
 http://www.fao.org/newsroom/en/news/2007/1000539/index.html

 従って、それを心待ちにしていたのだが、23日、漸く会合の模様と結論らしきものが発表された。

 発表によると、専門家は、諸国政府がバイオエネルギーを農村開発の推進力として利用できると合意した。FAOのアレクサンダー・ミューラー自然資源管理・環境局長による総括は、「バイオエネルギーは食糧安全保障を危機に陥れ、環境損傷を引き起こす恐れがあるという一部グループの懸念は正当なものであるが、他方、そ れは、もし政府が環境と食糧安全保障への懸念を考慮すれば、農村の人々の福祉の改善の重要な手段にもなり得る」ということだ。

 Bioenergy could drive rural development,FAO,4.23
 http://www.fao.org/newsroom/en/news/2007/1000540/index.html

 しかし、重要なことは、具体的にどうすれば環境や食糧安全保障を傷つけることなく、貧しい農村住民の福祉向上に役立てることができるのかということだ。

 このような観点からすると、米国のトウモロコシを原料とるエタノール生産、ブラジル・インドネシア・マレーシアの大規模モノカルチャー・プランテーションが生み出すサトウキビや オイルパームを原料とするバイオ燃料の大規模生産は、この会合でも否定されるか、少なくとも推奨はされなかったようだ。

 一部専門家は、バイオ燃料生産は、小規模農民が自身と地方コミュニティーのエネルギー源としてバイオ燃料用作物やバイオマスを作るか、国または国際市場のための商業生産に寄与する場合にのみ、環境の利益となり、食糧安全保障を増強することができると考えている。

 これら専門家によると、バイオ燃料用作物やその他のバイオ燃料原料は、食料作物やその他の植物が並んで育つ”モザイク”状の景観で生産されるのが最善である。これらモザイク内のバイオ燃料区域は、風よけ、土壌劣化地域の再建、自然生物多様性や広範な生態系サービスのためのハビタットなどの他の価値の高い便益も提供する。

 FAOの農業開発・経済部の
ヨゼフ・シュミットューバー上級エコノミストによると、バイオエネルギーは、もしうまく管理されれば、バイオ燃料生産が利益を上げることができる一部途上国における農業”ルネッサンス”を促進できる。彼は、新たなバイオエネルギー市場の食糧安全保障への影響は、関係国が食糧やエネルギーの純輸出国か純輸入国であるかによって、マイナスにもプラスにもなる、これは家計レベルでも同じことで、農村の土地無しや都市貧民は最大のリスクに曝される、このよう国やグループを保護する特別の措置が必要だと言う。

 専門家は、バイオエネルギー生産の食糧安全保障と環境への影響を分析するための手段の開発の加速と、バイオエネルギーの可能性を評価し、危険区域を確認するために諸国が必要とするデータと情報の強化に合意した。そして、食料生産のための土地や水と競合するバイオエネルギー作物は、食糧安全保障が脅かされている地域では栽培されてはならないと強調したという。

 バイオ燃料生産が急拡大する米国、ブラジル、インドネシア、マレーシア、中国などは、まさしく「危険区域」に分類されることになる恐れがある。地域資源を原料とし、地域のエネルギー自給を目指す農村地域のバイオエネルギー生産こそ、最も危険が小さく、最も有益であろう。 日本では、ちょっと山間部に入れば至るところで目立つ荒れ放題の耕作放棄地の利用も有益だろう。

 その他バイオ燃料熱が多少なりとも役に立ちそうな例をあげれば、まず大麦のバイオ燃料原料用利用の増大でビールが値上がり、ビール王国の地位を失いそうなドイツ1)は、ビールの飲みすぎでヨーロッパ一の肥満国の汚名を返上できるかもしれない2)。トウモロコシ価格上昇による食肉生産コスト上昇に悲鳴を上げるタイソン社が動物性油脂をジーゼル燃料の原料として利用しようとしている3)ことは、その飼料用利用を減らすことで狂牛病の発生を減らすことに貢献するかもしれない。

 1)Topping the EU Fat Stats, Germany Plans Anti-Obesity Drive ,DW-world,4.20
 2)
Germany's Cheap Beer Tradition Under Threat From Biofuels,DW-world,4.23
 3)
Tyson Foods and ConocoPhillips to Produce Diesel Fuel From Animal Fat,TheNew York Times,4.17