マスコミにも広がる食料と競合するバイオ燃料への疑念 が、食料と競合しなければよい?

農業情報研究所(WAPIC)

07.5.14

 食料との競合への懸念から、最近のバイオ燃料ブームに対してマスコミも盛んに疑問の声を上げ始めた。例えば今日の日経新聞社説。「バイオ燃料は切り札か? 新技術幅広く」と題して、最近のバイオ燃料ブームに警告を発している。それは、次のように論じる。

 「CO2を吸収した植物を原料にするわけだから、燃やしても大気のCO2増減は差し引きゼロになり、排出抑制に有効とされている」が、「いまのバイオ燃料は温暖化防止の優等生とは言い難い。自動車用燃料としてのエタノール需要拡大の期待は原料となる穀物や農作物の相場に影響を及ぼし、巡り巡って食糧価格の上昇も招いている。食糧の確保も世界の大きな問題であり、食糧となるべき穀物が燃料用に費やされるのは合理的ではない」。

 「現状のバイオ燃料は、持続可能な社会の技術としては未熟と言うべきだ。食糧と競合しない稲わらや建築廃材などの廃棄物から生産する、持続可能性の高いバイオ燃料の開発を推進すべきだろう。CO2排出を抑えるのだから、石油を使って生産地や遠隔地から輸送するのでなく、生産地の近隣で消費する「地産地消」も原則だ。育てるべき技術の芽、流通モデルはすでにある。

 バイオ燃料というだけでもてはやすのではなく、将来にわたって持続可能な技術かどうかの見極めがこれから重要になる」。

 (web)http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20070513MS3M1300313052007.html
 
 バイオ燃料が農業生産・食料供給や環境の持続可能性に及ぼす、あるいは及ぼすかもしれない悪影響についてはたびたび指摘してきたところであり、マスコミがこのような警告を発するまでに至ったことは大いに歓迎する。

 ただ、「将来にわたって持続可能な技術かどうかの見極めがこれから重要になる」のは、日本で生産されるバイオ燃料の主流となりそうな”食糧と競合しない”原料から生産されるバイオ燃料でも同様だということに注意しておきたい。

 例えば、ここで名指しされている稲わら。これは確かに食用にならない。そして、今は、かつて[戦後間もなくまで続いた牛馬耕の時代]、飼い葉・肥料・衣料・履物などの原料として極めて有用な稲作副産物であったことなどすっかり忘れられ、大部分は焼き払われ、煙霧公害を引き起こしている厄介な無用の長物にすぎないものとなっている。そうであれば、バイオ燃料を作るのに利用するのは、まさに”持続可能”な道かもしれない。

 ただ、これは、田が育てた稲の実だけは人間がいただき、他の部分は直接にか、家畜の排泄物を通して田に戻すという”持続可能”な”地力維持”の基本的あり方の放棄を認めることであることだけは認識しておきたい。このようなやり方を放棄した化学肥料主体の養分補給による作物生産がいずれ行き詰ることがないとはいえないからだ。家畜飼料として利用されることもほとんどなくなったが、将来は貴重な飼料源となるかもしれない。

 その上、この種のいわゆる”セルローズ系”バイオエタノールは、原料生産過程で消費するエネルギーは比較的少ないかもしれないが、原料をエタノールに加工する(セルロースを取り出す)過程で穀物や砂糖作物を原料とする場合よりも大量のエネルギーを消費する可能性が高い。場合によっては、他のバイオエタノールと同様、かえって温暖化の加速要因にもなりかねない。

 だから、これについても、「将来にわたって持続可能な技術かどうかの見極めがこれから重要になる」。

 トウモロコシの実を原料とするエタノールの生産の”持続可能性”への疑念が高まっている米国では、トウモロコシの茎からのエタノール生産が将来の課題となっているが、米国農務省農業研究局(ARS)の研究者は、茎は土壌浸食の防止と土壌有機物のレベルの維持のために畑に残さねばならず、土壌浸食の恐れのある畑で生産されたトウモロコシ茎はすべて畑に戻さなばならない、土壌浸食の恐れのない畑で生産されたトウモロコシ茎に限ってその半分をエタノール生産に振り向けることができると評価している。

 ARS News:In Producing Ethanol, Some Cornstalks Should be Left in the Field,07.4.25
  http://www.ars.usda.gov/is/pr/2007/070425.htm
  (これについては、日本農業新聞(07年5月13日)に「トウモロコシの茎 エタノール利用に限界 土壌の有機質維持に必要」として翻訳・紹介されている)

 食料と競合しない原料といえども、このように注意深い評価が必要ということだ。肥料なしで無限に育つかのように見える雑草の類の燃料用利用についても、その生態系への影響を見極める必要がある。