米国エタノールブームに陰り 生産急増で市場が”食傷の病”に倒れる

 農業情報研究所(WAPIC)

07.10.1

 9月30日付けのニューヨーク・タイムズ紙が、始まったばかりの米国バイオエタノールブームに早くも陰りが見え始めたと報じている。原因は、余りに急速な生産拡張に流通手段が追いつかないこともあり、エタノール市場が突然の食傷の病にかかってしまったことにある。

 スポット市場でのエタノール全国平均価格は5月以来30%も下落した。特に最近数週間の下落が激しい。エタノールについて講義し、生産者のためのコンサルタントをしているアイオワ州立大学のネイル・ハール教授は、エタノールブーム終焉が見えてきた、”今は、投資している人々には危険なときだ”と言う。

 政府の寛大な支援が生産の増勢を維持すると期待されるが、無計画な産業拡大は、ブッシュ大統領やその他の政策決定者の外国石油依存軽減の希望に応える能力への疑問を掻き立てる。

 Ethanol’s Boom Stalling as Glut Depresses Price,The New York Times,9.30
 http://www.nytimes.com/2007/09/30/business/30ethanol.html?_r=1&ref=business&oref=slogin

 多くの産業専門家は、この問題は、エタノール生産の中心地ーすなわち原料トウモロコシを生産するコーン・ベルトーから消費の中心地である沿岸地域へのエタノール輸送のボトルネックから生じた一時的問題と言う。

 しかし、これは楽観的にすぎるようだ。エタノールは腐食性で、水や不純物を吸い込むから、既存の燃料パイプラインで運ぶことはできない。列車、トラック、船など、急増するエタノール生産に追いつくのは難しい一層高価な輸送ネットワークで輸送せねばならない。このような輸送手段の整備のコストは誰が払うのか。それは経済的に引き合うのだろうか、環境に優しいはずのエタノールの環境負荷をかえって増すことにはならないのか。簡単に片付く問題ではなさそうだ。

 それだけではない。上院は、ガソリンにブレンドされねばならないバイオ燃料のシェアを2005年の75億ガロン(日量で490キロバレル=490kb/d)から、2015年には150億ガロン(980kb/d)、2022年には360億ガロン(2350kb/d)に引き上げる法案を採択したが、現在の生産レベルでさえ、トウモロコシや食料品の価格は高騰、水不足や窒素肥料多投による水汚染も深刻化している。これ以上の増産への政治的抵抗も強まる可能性が高い。

 輸送・流通インフラストラクチャーの問題を含むこれらの問題は、実は、既に今年7月のIEA(国際エネルギー機関)の中期石油市場報告が指摘していたものだ。これの問題を考慮したこの中期報告は、米国のバイオ燃料生産能力は2009年には840kb/dに達すると推定されるが、実際の供給量は533kb/dに低迷すると予測している。

 ニューヨーク・タイムズの報道は、IEAのこのような予測を改めて裏付けるものと見るべきだろう。

 ただ、これは、サトウキビ収穫労働者の命を犠牲にした(例えば、肺線維症による死→Brazil Ethanol Boom Belied by Diseased Lungs Among Cane Workers,Bloomberg.com - Sep 28)ブラジルのバイオ燃料輸出戦略をますます勢いづけるだけかもしれない。ブラジル国有石油・ペトロブラスは、三井物産とのジョイントベンチャーで、日本に輸出するための10億リットル(2億6400万ガロン)の生産能力を持つ5つの工場の新設を計画している。これは、2012年までにエタノール輸出を40億リットル(10億500万ガロン)に増やす事業計画の一環として、数週間以内に正式に承認されるという。