シンジェンタ エタノール生産用の糖化酵素内臓トウモロコシ 全廃棄物エタノール化への第一歩

農業情報研究所(WAPIC)

07.11.13

 多国籍種子・農薬企業:シンジェンタ社が、バイオエタノール製造過程で加えられる酵素を組み込んだトウモロコシの種子を開発したそうである。

 Syngenta in biofuels breakthrough,Financial Times,07.11.12,p.19
  Syngenta in biofuels breakthrough,FT.com,07.11.11

  現在のバイオエタノール生産においては、サトウキビ、テンサイ、モラセス(糖分以外の成分も含んだ製糖過程の副産物)などの糖質原料と並び、トウモロコシ、ソルガム、イモ類(ジャガイモ・サツマイモ・キャッサバなど)、小麦などの澱粉質原料が使われている。特に米国のバイオエタノールは、ほとんどすべてがトウモロコシを原料にしている。このような澱粉質原料からのバイオエタノール製造においては、澱粉を糖に変えるための酵素の添加が不可欠の一工程をなす。シンジェンタが開発したトウモロコシは、それ自体がこのような酵素を含むために、この工程を無用にする。それによって、バイオエタノール生産の効率の引き上げが可能になるということだ。

 モンサント、デュポンなどの種子・化学企業もエタノール生産を効率化する方法を追求してきたが、シンジェンタ社が食品医薬局(FDA)の承認を最初に勝ち取ることになった。同社は、今後9ヵ月の大規模試験を経て、2009年の栽培シーズンにはこの種子が販売されることになると期待する。大規模試験は、この種子が、少なくとも既存の種子と同等の収量を保証するかどうか、エタノールの生産過程全体を通じて機能するかどうかに焦点を当てる。今までのパイロット試験では収量増加が示されたという。

 この種子は、”精密交雑育種”(precision hybridisation)と呼ばれる遺伝子及び慣用技術を使って開発された。

 シンジェンタのプラグネル最高経営責任者によると、これで開発が終わるわけではない、トウモロコシの収穫のおよそ35%を占める廃棄物ー茎や葉ーを[糖に]転換できる酵素の発見が究極の目標だ。彼は、「作物の中で育てることができ、すべての廃棄物をエタノールに転換することを可能にする酵素を開発できれば、我々は真の勝者になる」と言う。

 食料品から製造されるバイオ燃料への批判が高まるなか、開発の焦点は、確かに”廃棄物”などが含むセルロースから糖を抽出し、これを発酵させることで作られる”第二世代バイオ燃料”・セルロース系エタノールに移ってきた。しかし、この動きも無批判的に受け入れることはできない。

 「すべての廃棄物をエタノールに転換する」ことが可能になれば何が起きるか。今年7月に発表された国連バイオエネルギー影響評価報告(国連バイオエネルギー影響評価報告 バイオ燃料産業急拡大に警告,07.5.10)は次のように言う。

 「将来、農業・林業残滓、またはその他の形の廃棄物に依存する第二世代技術は、バイオ燃料生産のために必要になる土地を大きく減らすことができよう。同時に、このような残滓が土壌と健全な生態系の維持のために必要であり、一定量が地面に残されねばならないことも認識することが重要だ。伐採残滓は森林の重要な栄養源であり、土壌を雨・太陽・風から保護し、浸食を減らす。農業残滓も農耕地で類似の役割を果たす。土壌の劣化や収量の減少を避けるためにどれだけの量の残滓を安全に取り除くことができるかを決定するためには、なお一層の研究が必要だ」(UN;Sustainable Bioenergy:A Framework for Decision Makers,07.5,Section3 Issue8,p.44)。

 「環境保全的農業技術は、土壌浸食を食い止めるのに加え、新たな土壌有機物の形で炭素を捕獲することで、気候変動の懸念への取り組みも助ける。ところが、大面積における炭素隔離能力は、この有機物の大部分がバイオエネルギーに転換されるならば、減少し、大気中への炭素放出に結果する。特に(作物残滓を含む)原料製品全体が利用できる第二世代バイオ燃料については、農業者に収穫物の一定割合を畑に残すように説得するのは難しい」(同上)

 米農務省農業研究局(ARS)の研究は、土壌浸食防止と土壌有機物のレベルを維持するために、米国で生産されるトウモロコシの茎の最大でも半分しかエタノール生産に利用できないことを明らかにしている。ここまでの利用が可能なのは、低耕起、あるいは不耕起で侵食の危険が少ない土地に限られる。そうした土地でも大豆と輪作する場合には、大豆が畑に残すバイオマスが減るから、エタノール生産向けバイオマスはさらに半減するという(ARS;In Producing Ethanol, Some Cornstalks Should be Left in the Field,07.4.25)。

 「すべての廃棄物をエタノールに転換する」という発想の危険性は、米国農務省さえ承知のことではないのか。日本における稲藁からのバイオエタノール生産の影響については、まともな研究さえないようだ。