米国07年エネルギー法 2020年までにバイオ燃料360億ガロン 210億ガロンは次世代バイオ燃料

農業情報研究所(WAPIC)

07.12.19

 米国議会下院が18日、1975年以来となる自動車燃費の改善、バイオ燃料利用の大幅拡大、電気製品の効率改善なを盛り込んだ2007年エネルギー法案(「エネルギー独立・安全保障法案」)を、賛成314、反対100の圧倒的多数で採択した。先週木曜日には上院も86対8の圧倒的多数で採択しており、議会を最終的に通過したことになる。法案は、ブッシュ政府が拒否権を発動すると脅す理由となっていた石油会社への増税や電力会社の再生可能エネルギー源利用目標の設定を放棄しており、大統領は今日にも調印するという。

 わが国マスコミの報道によるとは、この法案の焦点は、専ら自動車燃費の40%改善(1ガロンあたり平均25マイル=1リットルあたり15km)であるかのようだ(例えば、米、自動車燃費基準を32年ぶり強化へ 日経、2020年までに燃費4割向上 エネルギー法案可決 米大統領署名成立へ 産経)。しかし、あまりにも野心的なバイオ燃料利用目標の義務化はもっと重大な問題だ。

 この法律は、国の輸入石油依存を減らし、また温室効果ガス排出量を削減するといった国家安全保障や環境保護にかかわる目標の達成を目指し、バイオ燃料利用の大幅増大を義務づける。現在利用(生産)されているバイオ燃料は、トウモロコシを原料とするエタノール:70億ガロン(ガソリンに添加される自動車燃料として使われ、ガソリン消費量の4%を占める)だけだが、2022年にはその7倍以上の360億ガロンのバイオ燃料利用を義務化する。

 ただし、トウモロコシ原料エタノールは2015年までに150億ガロンに増やすにとどめ、農林業廃棄物や食品廃棄物、その他の非食料植物を原料とする次世代バイオ燃料を2017年までに90億ガロン、2022年までに21億ガロンに増やすという。

 一見、トウモロコシ利用の拡大に伴う食料・飼料価格高騰、そのモノカルチャー栽培拡大に伴う生物多様性や保全土壌の喪失、水資源の枯渇、窒素肥料大量投入による水系等汚染の深刻化など、トウモロコシ原料エタノールが持つ負の側面への厳しい批判に配慮したかのようだ。

 しかし、それでも、トウモロコシ原料エタノールの生産は、2015年までにほぼ現在の倍に増やさねばならない。エタノール生産に向けられるトウモロコシ(現在は米国の全生産の2割ほど)が倍増し、従ってトウモロコシ生産に当てられる土地面積(現在は、2007年の総面積:9400万エーカー=3200万fの2割として1900万エーカー=650万f)も倍増せねばならない。

 食料・飼料用に利用できるトウモロコシはますます減る、あるいはトウモロコシ作付増加のために大豆その他の食料作物の作付がますます減る、あるいは土壌・野生生物保全区域の耕作地化さえ加速する恐れがある。70億ガロンのエタノール生産だけでも食料・飼料価格の”暴騰”につながっている。米国のみならず、世界の食料情勢は収拾不能の混乱に陥るだろう。環境破壊もますます加速することは目に見えている。

 10年以内に次世代バイオ燃料の大規模商業生産が実現するなど、よほど楽観的な、あるいは強気なバイオ燃料専門家でさえ、保証はできない。そのためには、数年以内に技術的”ブレークスルー”が実現せねばならないが、どんな技術専門家でもそれは不確実と言うだろう。その経済的実現可能性や環境影響も不確実そのものだ。

 例えば、最も有望とされるスィッチグラス・エタノールでも、分からないことばかりだ。

 それは肥料無用という。しかし、土に戻るべき部分も含むすべてが毎年バイオ燃料用に取り払われれば、肥料なしでは育たなくなるだろう。

 灌漑も要らないという。しかし、適度な湿りもないニューメキシコやアリゾナで植えてもまとも育つはずはない。

 食用作物の栽培に適さないがスウィッチグラスなら植えられる土地は米国国土の15%を占める。この土地全部にスウィッチグラスを植えれば、米国で消費されるガソリンの全部をエタノールに置き換えられるという。しかし、こんな土地のスウィッチグラスの収量が、優良農地の実験で確かめられる収量(乾物重量でエーカー当たり10ー15トン、1000−1500ガロンのエタノールになる)に達するはずがない。それに、こんな土地全部にスウィッチグラスを植えたら、生物多様性はどうなるのか。

 収量は遺伝子組み換え(GM)技術で改善できるという。しかし、10年で1回しか種を撒かない多年生作物のGM品種を開発して儲かる企業などあるのだろうか。それに、あと10年で商業生産の期限には間に合わないだろう。

 スウィッチグラスは高さが3mも超える硬い木のような草だ。収穫・[工場までの]輸送コストはトウモロコシの比ではない。工場で使う酵素のコストも高い。

 今や、トウモロコシ原料のエタノールの生産企業でさえ、輸送・流通インフラの欠如などによる市場の閉塞がもたらす製品価格低迷と原料価格高騰で、工場建設・拡張計画を中止せざるを得ない苦境に追い込まれている。そこに7倍ものエタノールを注ぎ込んでどうするというのだろうか。

 もっとも、法案は、これが実現不能と分かったときには、政府が義務的目標を変更することも許すという”エスケープ・クローズ”を含む。その一刻も早い適用が、米国バイオ燃料戦艦の沈没を防ぐ最善の方法かもしれない。

 ニュース・ソース
 Food and Fuel Compete for Land,The New York Times,12.18
  As Ethanol Takes Its First Steps, Congress Proposes a Giant Leap,,The New York Times,12.18
 
Energy Bill Puts Focus On Conservation Efforts,The Washington Post,12.19

 スィッチグラスについての参照記事
 
Switchgrass To Ethanol,Past Peak,06.3.8
  Biofuels from Switchgrass: Greener Energy Pastures,DoE(USA)