石油連盟がバイオ燃料50万kL導入を表明 余りに非効率な気候変動抑制策

農業情報研究所(WAPIC)

08.3.18

  石油連盟が17日、従来原油換算で21万kL(キロリットル)としていたバイオ燃料導入目標を、京都議定書目標達成計画におけるの国の2010年度目標である50万kLに引き上げると発表したそうである。経済産業省が14日に文書で要請していたという。

 ただし、エタノールとイソブチレンから合成されるETBE(エチルターシャリーブチルエーテル)としての利用を条件とし、かつ目標達成期限も2012年度まで延ばすということである。

 石連、バイオ燃料導入量を50万キロリットルに引き上げ 日刊工業新聞 08年3月18日
 http://www.nikkan.co.jp/news/nkx0720080318111caap.html

 こんなことに何故血眼になるのだろうか。それによって、温室効果ガス(GHG)排出量をどれほど削減できるというのだろうか。

 2010年頃までに国内で生産できるバイオ燃料は最大でも年3.6万kL(糖蜜や規格外小麦からの3万kLと建築木材廃材からの0.6万kLのエタノール)にとどまるから、目標を達成するために必要なエタノールのほとんどすべては輸入品となり、これだけの輸出能力を持つのはブラジルだけだから、そのほとんどすべてはブラジル産ということになるだろう。

 そのブラジル産エタノールのライフサイクルGHG排出量がガソリンに比べて90%(今までの諸研究で最大限)少なく、それが50万kLのバイオ燃料すべてに使われるとして、それによって削減されるGHG(CO2)排出量は106万トンにすぎない(ガソリン1kL燃焼で排出されるCO2を2.36トンとして)。これは、2005年のGHG排出量全体(12億6387万トン)の0.1%にも満たず、ガソリン消費に伴うGHG排出量(1億4228万トン)と比べても0.7%にすぎない。国産のセルロース系エタノールのGHG排出量削減能力はブラジル産エタノールよりは劣るというのが一般的な見方だから、国産が入れば、これはもっと減ることになる。

 そのうえ、たったこれだけの削減のためにどれほどの費用がかかるのか。ブラジルの2006/07年のエタノール平均輸出価格(http://www.portalunica.com.br/portalunicaenglish/files/statistics_exports-4-Arquivo.xls)は0.5米ドル/L(f.o.b.)ほどであった。1ドル=100円として50円/Lほどだ。運賃を加えて日本の輸入価格を60円/Lほどとすれは、原油換算50万kL=エタノール78万kLの輸入費用を排出削減量106万トンで割ったGHG1トン削減のためにかかる費用は約4万4000円になる。

 現在のヨーロッパ排出権取引市場におけるトン当たり価格は20€ほどだから、1€=150円としても3000円ほどだ。エタノール利用によるGHG排出削減費用はそれを10倍以上も超えることになる。鉄鋼業界がCO2排出量を1トン減らすのに必要な費用は3万2900円というか ら(日本経済新聞調査)、それに比べても非効率的なGHG削減方法だ(注)

  もっと安上がりで確実なGHG削減方法(例えばバイオマスの電気と熱の生産への利用)の開発と普及に、 あるいは炭素吸収貯留能力の増強(たとえば、田畑への堆肥投入)に、何故この費用を振り向けないないのだろうか。 洞爺湖サミットに向けて、日本の”美しい星”への貢献を”効率的”に売り込むにはこれしかないということなのであろうか。

  ただ、今回の発表の裏には、エタノールブレンド方式を推す環境省に対抗、ETBE方式の採用で先手を取ろうとする経産省と石油業界の思惑も見え隠れする。経産省がこれを要請したまさにその日、トヨタ自動車は、エタノール混合率10%燃料(E10)対応車として、カローラフィールダー1.8L 2WD(CVT)の国土交通大臣認定を取得したと発表した。環境省の「地球温暖化対策技術開発事業」(E10利用実証事業)で、E10対応車による実走行を今月末から計画している大阪府に提供する予定、環境省が関係するバイオエタノール・ジャパン・関西が供給する建設廃木材、木くずなどの廃棄物を活用した食料と競合しないセルロース系エタノールを混合するという。

 この場合、第二種監視化学物質に指定され、長期毒性や環境影響のリスクを持つETBEよりも、健康・環境コストは低いと言えるかもしれない。ただ、この種のエタノールのGHG削減能力については、平均的にはブラジルのサトウキビ・エタノールより多少優れているが、悪条件の場合には劣るという総合資源エネルギー調査会石油分科会石油部会燃料政策小委員会の2003年の試算があるだけである。そして、GHG排出削減の費用効果に関しては、まったく評価がない。”美しい星”への貢献はETBE方式と大同小異だろう。

 これは、「既に2006年6月以降に世界各地で生産している全てのガソリンエンジン車において、燃料系部品の材質変更を行うなど、E10への技術的対応を完了している」という自動車会社としての発展戦略がもたらした選択であろう。

 ニュース:バイオエタノール混合率10%燃料対応車の国土交通大臣認定を取得,トヨタ自動車、08.3.14

 (注)このように非効率なうえに、ブラジルの原料生産のためのサトウキビ農園が草地を侵略、さらにその余波でアマゾン森林の破壊まで加速しているとすれば、GHG排出削減どころか、その増加さえもたらしかねない。

 今年2月20-21日、G8と5つの新興国(ブラジル、中国、インド、メキシコ、南アフリカ)の立法関係者がブラジリアで会合、6つの持続可能性基準と、気候変動緩和のために推奨されるべきバイオ燃料の認証システムに関する文書について議論した。ブラジルのマリア・シルバ環境相はガソリン代替エタノールによるブラジルのGHG排出量削減の実績を強調、サンパウロ・サトウキビ産業連盟のマルコス・ジャンク会長は、ガソリンからのGHG排出量を60%以上減らせるとエタノールを擁護した。

 しかし、世界的バイオ燃料市場を創設するというブラジルの提案は孤立した。スウェーデン選出欧州議会議員は、バイオ燃料は気候変動緩和にほとんど、あるいは何も貢献しないと見られるようになったと指摘、多くの議員たちのブラジルの主張への疑念も晴れなかった。

 CLIMATE CHANGE: Brazilian Ethanol Goes It Alone,IPS,3.1
 CLIMATE CHANGE: Brazilian Ethanol Goes It Alone,IPS,3.1